WorkShiftInstitute

株式会社ワークシフト研究所

〒106-0044 東京都港区東麻布1-7-3
第二渡邊ビル 7階

お問い合わせ

お問い合わせ

Case導入実績

スリーエム ジャパン株式会社

管理者向け研修

女性リーダー研修

コンサルティング

コーチング

スリーエム ジャパン株式会社の辻綾子さまと、上司の笹川さまのインタビュー

今回は、2015年の第2子育休時に「育休プチMBA」に参加、復職したスリーエム ジャパン株式会社・リーンシックスシグマ所属の辻綾子さまと、今回の育休の前から辻さまの上司であったディスプレイ製品事業部・グローバルマーケティング部長の笹川逸郎さまにお話を伺いました。辻さまは第2子の育休後は育休前から所属していた笹川さまの部署に復職されましたが、その後笹川さまの勧めにより現部署に異動しています。インタビュー時点では、現上司であるマスターブラックベルトの仲山正紀さまにも合わせてお話を伺いました。

  • ―辻さまの復職後の様子はいかがでしたか?育休前と比べて何か変化は感じましたか?

    笹川さま 「辻さんには、育休前・育休後も変わらずマーケティング業務を任せていました。マーケティングといってもB to Bビジネスですので、新製品に対するお客様と製造側の取りまとめ役です。彼女は入社後、数年間はこの事業部の販売部に所属していまして、それからマーケティング部に異動してきたので、製造側とのとりまとめというより、お客様の立場だけを重視した行動をとっていたように見えました。それが、育休から復職した後はすごくバランスがよくなりました。お客様の立場だけでなく、製造部の声もバランスよく聞きながらお互いにとってベストな方法を探すことができるようになっています。販売部寄りな視点から、全体を見るマネジメントの視点に移行したように感じました。あと、復職後は判断が早くなりました。育休前は、『こういう状況ですがどうしたらいいですか?』というオープン・クエスチョンに近い相談が多かったのですが、復職後は、具体的なアクションまで決めたクローズド・クエスチョンに仕立ててから私の判断を仰ぐことが多くなりました。この変化は非常にプラスでして、自分で判断してものを進めることでアカウンタビリティが高くなりますし、スピード感も上がります。元々私は、大きな間違いは指摘しますけれど、基本的に口を出さずに自分で判断して仕事を進めてもらう方針です。この一連の作業がトレーニングだと捉えていますし、私自身そのように育てられました。ただこれは、本人が『どうしたらいいですか?』と聞いてくる状態ですと、トレーニングとして成り立ちません。辻さんも育休前はそういうことが多かったのですが、育休から復職してきたらそういうトレーニングができる状態になっていたどころか、もっと先に行っていました。自分で判断しているが、結果はまだまだなのがレベル1、反論を予測することまでできているのがレベル2、反論への対策も済ませたロジックを組み立てて提案をしているのがレベル3だとしたら、辻さんの場合、もともとは1か2だったところが、育休から戻ってきたらレベル3になっていました。今後マネジャーになって欲しい人材ですので、非常にうれしく思いました。相談回数自体がかなり増えていますし、相談がクローズド・クエスチョンになっているので、意思決定の精度と時間が改善されていると感じます。」

  • ―辻さまの復職後の様子を見て、より挑戦的な現在のポジションへの異動を提案したと伺いましたが、その理由を教えてください。

    笹川さま 「辻さんと育休後にコミュニケーションをしている中で、より大きなビジョンでものを見ることが合っていそうだと感じました。異動後の部署(リーンシックスシグマ)は、クロスファンクショナルな行動を取らなければいけない、という点ではチャレンジングですが、会社を動かすことだったり、今の活動を俯瞰的に見ることだったりができるところが、辻さんにとって良いキャリアパスになるのかな、と感じまして。おそらく、育休前の辻さんだったらこれは薦めていません。復職後は辻さんの視野が広がっているな、俯瞰的にものが見られるようになっているな、と思いましたので、さらに広い視野を身につけることができるポジションを提案できると思いました。辻さんは、PDCAのサイクルが早い。PLANは人並みの状態だと思うのですけれど、DOがものすごく早くて、CHECKとACTIONも早い。なので、あとはPLANのスピードと精度を高めるのが次のステップで、全部回せるようになればマネジャーと考えます。何かひとつに集中するというよりも、ゼネラルな見方でものごとを進められるところで強みを発揮できるのではないかと感じます。」

  • ―今回の辻さまの様子を踏まえて、育休に入る部下には育休中にどんなことを学んでほしいと思いますか?

    笹川さま 「どれだけ本人にやる気があるのかによりますが、育休中の部下とコミュニケーションする場合は、報告するものがあって初めて、その質が上がると思います。育休プチMBAのような活動をしていると本人も報告したいでしょうから、コミュニケーションのための仕組みとして機能すると思いました。勉強会でケーススタディをやっているということだったので、ケーススタディに合わせたかたちで『今のうちの状態どう思う?』という質問と一緒に、資料を渡して読んできてもらうこともできました。ゼロの状態で育休から戻ってくるのではなくて、勉強会がコミュニケーションの素地を作ってくれて、その状態で復職を迎えられたので、今回私はすごくありがたく感じ、また、勉強会に参加することで復帰しやすいシステムになっているのだなと感じました。残念ながら都合が合いませんでしたが、見学も行ってみたかったです。ちょっと気になったのは、参加者全員がお母さんで同じ価値観の人たちが集まってしまうと、発想や考え方に偏りが出てしまうのかなと思っていたのですが、今、国保さんのお話を伺っていて、ファシリテーションを上手く行うことでバランスの取れた状態になるようにしていると分かりました。」

  • ―ここからは辻さまも同席してのインタビューです。育休後は顧客サイドに偏らずより上位の視点を獲得しているという評価ですが、自覚はありますか?

    辻さま 「あります。視野が狭く、販売部員としての感覚が抜け切らないままマーケッタ―として活動しているバランスの悪い自分に気づきました。育休プチMBAで学んだことや経験したことを自分の仕事に当てはめながら振り返る中で、『自分の視点の低さがああいうところでも出ていたな』と痛感しました。大局的に物事を捉えられていないから今までのやり方を逸脱できなかったと気づいて、例えば部長だったらどうするかなとか、事業部長だったらどうするかなという見方の癖をつけないと、より良い仕事ができないと考えるようになり、以来意識しています。視点が低いことによって得られる現場感覚もある一方で、いまの私は会社の利益を考えなきゃいけない立場になっているというのを強く意識したのは、育休中の学びがきっかけだと思います。育休前も分かってなかったわけではないのですが、自分ができていないことにちゃんと気づけた、肚落ちしたのかなと思っています。勉強会に参加したり、運営チームとして活動したりする中でじわじわと自分の視点の低さを痛感したこと、あとファシリテーターとして登壇する前に受けたトレーニングで自分は視野が狭いと感じたのが大きかったです(※注:辻さまは育休プチMBAの運営を支えるボランティアチームにも参加していただきました。勉強会では運営チームのメンバーが、ワークシフト研究所の事前トレーニングを受けた上で、ファシリテーターとして登壇しています)。あとは、育休前は甘えというか、自分である程度の判断をした上で相談しなくちゃいけないという意識が薄く、すぐ周りや笹川さんに相談していました。でもそれだと自分も成長できないし、私が上司だったらそこまで考えてから来いよと思っただろうなと気づき、判断するところまでが自分の仕事だと心掛けるようになりました。そういう意識がなかったわけではなくて、やらなくちゃ、とは思っていたのですが、分かっていたのとやれていたのとは違うというか、そこまで自分をストレッチさせようという意識が前はなかったかなと思います。」

  • ―なぜそれができるようになりましたか?

    辻さま 「判断する喜びを知ったから、でしょうか。育休プチMBAの運営チームでマネジャーの疑似経験をしたことで、たとえ判断が間違っていたとしてもそこまでやらないと自分の将来的な成長にならない、そういう経験を積み重ねていないとマネジャーのポジションにはなれないし、マネジメント側はここまでを現場に求めているなと気づきました。チームの力を借りてものごとを進めるという経験をたくさんさせていただいたので、楽しいしやりがいがあるし、自分にもできるという自信にもつながったのではないかと思います。今まではいち担当者だから目先のことしか見ていなかったのが、3Mとしてベストのやり方は何だろうと考えられるようになりました。笹川さんが教育してくださったことも大きいですし、育休中に会社目線を持たなくてはいけないということを叩き込まれていたのでスムーズに変われたというのもあります。」

  • ―続けて、現上司の仲山さまのインタビューです。仲山さまは復職後の辻さまだけをご存知なので、現在の辻さまに対してどういった評価をされているかをお伺いしました。

    仲山さま 「うちの組織は業務改善推進室といった役割なので、定型の業務というより、プロジェクトベースで仕事をします。辻さんが担当している大きな組織改編のプロジェクトのトップの人間と先ほど会議で一緒だったのですが、『辻さんにはよくやってもらって本当に助かっている』ということを仰っていただきました。辻さんが他のメンバーと違うところは、チームビルディングというか、人を巻き込もうという意識が高いことですね。実はこの前の土曜日も『うちでチームビルディング会をやりませんか?』と言われてメンバーで辻さんの家に集まりました。私には部下が10人いるのですが、緩やかな連携はありつつ、各自が別のプロジェクトをやっているので、横のつながりは持とうとしなければ生まれ難い環境にあります。単に集まって飲みたいというのもあるかもしれないですが、チームビルディングの意識が彼女は強いのかなと思います。あと関心するのは、取り組み姿勢です。嫌がった顔を見たことがない。上司からしたら、ジョブアサイメントをするときに辻さんみたいにポジティブに『2時間後だったら手が空きますけどいいですか』と受ける前提で言ってもらうのと、『今日は時間がないのですみません』と言われるのとは違いますよね。タイムリーなレスポンスや御礼メールも含めて、彼女と仕事をするのは心地良いと感じている人は多いと思います。私は子育て中の女性と働く経験が多くて、活躍してくれる人を何人も見ています。だから育休中の期間を活かして、財務とか組織論とか、経営の基本的なことを学ぶと良いのではないでしょうか。あとはエクセルでプロセスマップを描いて業務効率化するといった手法を学ぶのもいいと思います。後は、もし本人が希望するならば、育休3カ月目くらいから週半分くらい在宅で業務支援をするということがあってもいいのではないでしょうか。実務と接触がない期間が長くなると仕事の勘が鈍るので、定期的に会社に関わっていてほしいという気はします。」

  • ―ここからは辻さまも同席してのインタビューです。部署の横のつながりを積極的に辻さんが作っているという話を伺いました。ご自身でそこは意識されていますか?

    辻さま 「ブラックベルトという役職は、個人の成果を出すのは当たり前ですが、それだけだと会社全体にとっては足りないのではないかと。経営をサポートすることが私たちの仕事だと思っているので、そのためにはみんなで色んな情報や事例を共有して、もっと良いチームにしていく、お互いの成長を促進しあって個人としても全体としても強くなっていくことが必要だと考えています。3MのLeadership Behaviorsの中には、『Foster collaboration & teamwork(協働とチームワークを育む)』や『Develop others and self(チームと自分を成長させる)』という項目がはいっています。数字的に成功させたという成果も大事だと思いますが、自分がどういうリーダーになっていきたいか、3M全体としてどんな組織が求められているかということに立ち返ると、より良いチームが必要だという信念にいきつきます。なので、時間がないのは事実なのですが、時間がないからやらないではなく、やるためにどうするかを考えています。ポジティブな姿勢は、強みでも弱みでもあると思っています。メンバーとの立ち位置をみて自分の特性を活かすべきだと思っていますし、積極的に行動し続ける人が身近にいることによって周りも影響を受けてくれるのではないかと。ただ、部下がいる状態になるとポジティブな姿勢だけじゃうまくいかないことも起きてくると思うので、その時々で立ち止まって考えて、ベストな自分でいられるようなやり方を考えたいなと思っています。」

  • ―なぜそう考えるようになりましたか?

    辻さま 「育休プチMBAの運営チームとして活動する中で、課題が発生してネガティブな雰囲気が生まれたときに、自分が行動を起こすことで良い方向に変えられて成功するという経験をしています。それが支えになっているし、自分がこういう行動をとると組織がこういう風に動くのだと学びました。チーム意識については、育休プチMBAの運営チームでは役割を明確にして活動していましたが、担当者だけにやってもらうと全然うまくいかなかったことが、チームとして活動するとスムーズに解決するのをみて、個人で出せるパフォーマンスとチームで出せるパフォーマンスが違うことを学びました。あとはケースディスカッションで勉強する中で、チームとして機能していない、コミュニケーションがうまくいっていないということが問題になることが多いと肌で実感できたのも大きかったかなと思います。勉強会と運営チームとしての活動を同時進行でできたことも大きかったと思います。ケースで理論的なことを学んでリフレクションするという作業と同時並行で、自分の手足を使って検証していく泥臭い作業が常にあったので、相乗効果があったと思います。ビジネス書も読んだだけでは腑に落ちなくて、その後業務で直面したときに、『本で言っていたのはこういうことだったのか』と肚落ちする感じだと思います。」

  • インタビュー後記

    育休前後の辻さまの様子をしっかりと観察している笹川様という上司の元で、のびのびと仕事をしながら成長していく様子がよくわかるインタビューでした。辻さまにさらなる成長機会を与えるために自分の部署から出したとう笹川さまのお話を伺って、こうした上司に恵まれると育休というブランクや時間制約など大した問題ではないのだなと感じます。また、そうしたアドバイスで異動した先でも、限られた時間の中で期待以上のパフォーマンスを出されているのも素晴らしいと思いました。育休復職後は圧倒的に時間が足りなくなりますが、その中で時間を使うべきところの優先順位を上司目線や会社の方針から落として決めるというやり方は、育休復職者に限らず多くの人の参考になるのではないかと思います。出産後により挑戦的な業務にチャレンジしている姿は、これから出産や復職を迎える次世代に希望を与えることと思います。笹川さま、仲山さま、辻さま、ありがとうございました。 (国保祥子)