2025/11/5
コラム
女性活躍推進に効く研修とは? ― 逆効果を避ける成功の条件
ワークシフト研究所 代表取締役社長 小早川優子
人的資本経営やダイバーシティ経営が重視される中、多くの企業が「女性活躍推進研修」に取り組んでいます。しかし、これまでの研究では、研修の設計次第で効果が出る場合もあれば、逆に女性管理職の割合を減らすなど、逆効果になる場合もあることが明らかになっています。
このコラムでは、女性活躍推進研修がなぜ失敗するのか、どのように設計すれば効果が上がるのかを整理します。
女性リーダー研修が「逆効果」になる典型例
1. 参加を強制する
31年にわたり830社を調査した研究では、強制参加型の多様性研修を導入した企業で、女性管理職の比率が7.5~10%低下したことが分かりました。一方で、任意参加型かつビジネス目的に結びついた研修は効果的でした。
「義務として受けさせられる研修」は、社員の自律性を損なうため、反発を招きやすくなります。結果的に「女性活躍推進」への理解が妨げられ、組織文化がむしろ硬直化する危険性があります。
2. 固定観念や偏見の抑制を強要する
ステレオタイプ(固定観念)やバイアス(偏見)を持たないように、と強要する研修は、かえってその固定観念や偏見を強く想起させる「リバウンド効果」も生み出します。特に、性別に関する固定観念を扱う場合は、女性活躍推進の妨げになるリスクがあります。
バイアス研修は、受講生本人に自覚を促す効果がある一方で、参加者に「どうしようもない偏見を持っている」という敗北感を与え、行動を阻害することがあるからです。敗北感や劣等感を持つことがストレスとなり、逆にバイアスに基づく差別を正当化することにもつながる場合があります。結果として関係性が悪化し、
女性活躍推進に逆効果となることもあります。
3. 単発研修の限界
約3,000人を対象にした実験では、オンライン研修で態度変容は確認できたものの、昇進や評価につながる行動変容は見られませんでした。女性活躍推進研修は、一度きりではなく、継続的に設計することが不可欠です。
4. 企画者側のジェンダーバイアス
我々は皆、程度の差こそあれ、ジェンダーバイアスを持っています。当然ですが、女性活躍を真剣に考える企画者にもジェンダーバイアスがあります。非常に難しい問題ではありますが、女性リーダー研修に関しては、企画者が自分自身のバイアスに向き合い、その上でプログラムを設計する必要があります。
例えば、多くの管理者・企画者は、女性リーダーに対しては「協調的」「巻き込み方のリーダー」「部下育成」「着実に完璧に」を期待することが多く、男性リーダーに対しては「数字に強い」「強く引っ張る」「戦略的に考える」「事業を立て直す、売上に貢献する」を期待することが傾向として多く見られます。
こういった「無意識の期待」通りに研修プログラムを設計すると、女性リーダー向けには、「コミュニケーション」「アサーション」「リーダーシップ」の科目が多くなり、「財務」「戦略」「ビジネスモデル」の科目が少なくなります(実際に、世の中の「女性リーダー向け研修」にはコミュニケーション中心の研修が非常に多くあります)。よって、無意識の期待通りに育成すると、財務や戦略の知識が乏しく、ビジネスモデル全体を考えて思考する女性リーダーが育たないことになります。結果的に部長や役員になるスキルを獲得できません。
受講する女性の提案を元にした研修にもジェンダーバイアスが隠されています。例えば、論理的思考に苦手意識を感じている女性は多くいますが、多くの女性が論理的思考を発揮できない理由には、思考力ではない別の何か、例えば、思い込みやバイアスが真の理由としてあったりするので、その真の理由を解決せずに論理的思考を学んでも意味がありません。
女性リーダー研修が「効果的」となるための条件
様々な研究結果を踏まえると、企業が女性活躍推進研修を設計する際には以下のポイントが重要です。
- 任意参加を基本とし、自律性を尊重する設計にする
- 「否定」ではなく、多様性のポジティブな効果を強調する
- 単発の研修ではなく、長期的な人材戦略の一環に位置づける
- 企画側の意図、そしてジェンダーバイアスを理解した上で研修を設計する
- フォローアップや評価制度を設け、行動変容まで橋渡しする
(図:成功する女性活躍推進研修)
女性活躍推進におけるワークシフト研究所のアプローチ
ワークシフト研究所では、ケースメソッドを活用したディスカッション型の研修を提供しています。 特徴は次の通りです。
- 実際のビジネス課題を題材に、思考力・意思決定力・発信力を鍛える
- 受講生の傾向、組織の求める人材に応じた柔軟なカスタマイズ
- 参加者同士のディスカッションを通じて、自律的な行動変容を促す
- 研修だけではなく、フォローアップや社内浸透の仕組みとセットで設計
一度きりの啓発ではなく、「行動変容」→「組織文化変革」→「経営成果」へとつながる研修を目指しています。
まとめ ― 女性も活躍できる組織を作るために
女性活躍推進研修は、やり方によっては逆効果になり得ます。しかし、今回ご紹介したような研究知見に基づき、社員の自律性を尊重し、行動変容を促す設計を行えば、企業の人的資本経営において大きな成果を生み出すことができます。
ワークシフト研究所では、科学的エビデンスと実務経験を組み合わせ、成果につながる女性活躍推進研修を企業に提供しています。
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