WorkShiftInstitute

株式会社ワークシフト研究所

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Case導入事例

YKK AP株式会社

育休者向け研修

多様な人材の両立支援から活躍推進へ キャリア形成メニューの一つに「育休プチMBA」を導入

YKK AP株式会社は、窓やドア、カーテンウォール、エクステリア商品などの建築用プロダクツを展開する企業です。ダイバーシティ&インクルージョンの推進にも注力しており、育児と仕事の両立支援制度の充実に加え、2015年から女性社員のキャリア開発支援プログラムをスタートし、「APWoman キャリアアッププログラム(通称:マドキャリ)」として長期的に展開しています。管理職を目指す多くの女性社員の背中を押してきました。2023年度からは、育児休業中の不安解消やスキルアップ、孤独解消などを目的にワークシフト研究所の「育休プチMBA」※を導入し、様々な角度から女性をはじめとする多様な人材の活躍を支援しています。ダイバーシティ推進室の立ち上げから関わっているグループ長の矢野雅子氏に、同社の取り組みについて話を聞きました。 (※YKK APでは「育休復帰ウォーミングアッププログラム~ママ・パパのつながる場~」とネーミング) 人事部 人事戦略室 ダイバーシティ推進グループ グループ長 矢野 雅子氏 (取材日:2025/03/26)

  • -矢野様はダイバーシティ推進室に立ち上げから関わっていらっしゃるのですね。

    矢野さま
    はい。私は1998年に技術職で入社しましたが、2012年にダイバーシティ推進室長の公募があったときに、手を挙げて異動しました。2012年から2015年まで責任者を務め、その後、出産を機に家族のいる関西に異動し、2021年にダイバーシティ推進の仕事に戻って来ました。

    当時、ダイバーシティ推進室長に応募した理由は、当社の女性活躍に課題を感じていたからです。私は女性の技術職採用の全国2期生で、10年ほど商品開発をやってきたのですが、何しろ2期生ですから配属先の部門は男性ばかり。入社当初はどこに行っても珍しがられて、女性は私のほかには事務職の方しかいませんでした。商品開発のメンバーと共に残業していると、ベテランの女性社員に「なんで残業しているの。帰らなくて大丈夫?」と言われるわけです。女性ですが開発職で入社しているので「大丈夫です」と答えるのですが、そうやって声をかけられることが不思議でした。管理職ももちろん男性ばかりで、このままやっていけるのかという不安もありました。

    そのような中、入社14年目にYKK APが本気で女性活躍推進をやるのであれば、私がこの先どう働いていけばいいか、会社の思いを知ることができるのではと考え、応募しました。ちなみに、ダイバーシティ推進室が立ち上げのきっかけは、YKKグループの次期女性リーダープロジェクトでの提言【女性活躍推進のためには「柔軟な働き方(時間単位年休・フレックスタイム勤務)」「教育支援制度」の他、「専任部署の設置」が必要である】ところからです。

    当初から比べると確実に女性の管理職は増え、女性の役員(専務執行役員1名、常務執行役員3名)も誕生しています。

  • -では改めて、現在のダイバーシティ推進グループの取り組みを教えてください。

    矢野さま
    女性活躍推進のほか、ダイバーシティ(多様性)の観点から障がい者、性的マイノリティといった分野に取り組んでいます。その中でも女性活躍推進は、実態に合わせ、ステップを踏みながらステージをあげて対応していますが、当社は建築用工業製品を製造、販売する会社なので男性が多く、女性社員比率は26~27%。女性管理職比率となると6.9%で、増えてきたとはいえ、全体で見るとまだまだ女性の管理職が少ない状況です。ジェンダーレスの時代で、ことさらに「女性」を取り上げることに対する抵抗も一部にはあります。とはいえ、多様な考えや価値観が活かされないと新しい価値も創出できない(生み出せない)と考えます。
    もっともっと多様性を受け入れる会社にしていこうと今、取り組んでいるところです。

  • -取り組みの一環で弊社の「育休プチMBA」を導入いただきました。導入の経緯などを教えてください。

    矢野さま
    私の上司である人事部長は、経営へ女性活躍のための提言を行ったプロジェクトメンバーの一人です。
    その人事部長から紹介があり、私も試しに参加してみたところ、自分の育休当時にこれがあったら行きたかったなと思いました。

    当時の私は、育休とは「休む」と書くから時間があるだろうと勘違いし、国家資格キャリアコンサルタントの資格を取得しようと考えました。当社の場合、通信教育は、完了すれば受講料を100%会社が負担してくれます。それもあって育休中に勉強したのですが、とても大変でした。乳児を抱えているとまとまった時間が取れず、おちおち勉強などしていられません。それでも何とか取得できました。それと比べると、「育休プチMBA」はケーススタディが中心で、同じ勉強をするにもより実際の業務に即しています。他社の方とも交流でき、横のつながりができることもポイントです。お子さん連れでも参加できますし、今だったら「育休プチMBA」も選んだのに…と思いました。
    そのような経緯で好印象を持ったので、スムーズに導入へと進んでいきました。

  • -今までに何人くらい受講していただけましたか。

    矢野さま
    「育休プチMBA」は、2023年に導入し、この2年で受講した人数は13人です。こちらの周知不足もあってちょっと少ないと感じています。ただ、受講した人はとても満足していて、複数回受講している人も多いです。アンケートを取ったところ、「とても満足」「難易度もちょうどよく、プログラムも役に立った」などの声が挙がっていて、なかには「1回目はまだ頭が慣れていなくて、課題に対する原因と対策を考えるのに時間がかかったが、何度か受講することで育児と家事以外のことに頭が回るようになった」といった具体的な回答もありました。育休中ならではの「人と話す機会になってよかった」との回答もあり、「交流」や「つながり」の面でも好評でした。今後、こういった声を伝え、案内をしていきたいと考えています。

  • ―実施してみてどうでしたか。受けた方の感想なども教えてください。

    矢野さま
    セミナーには各回約40名が参加してくれました。今年の2月と3月に実施して、今年度もぜひやりたいと思っています。

    受けた方の声としては、「ライフイベントとの両立で時間的制約があるなかで、このように考えていこう」といったメッセージを明確に打ち出した点を評価する声や、ほかの利用者さんと交流できたことがよかったという声を多くもらいました。座学も充実していて、私自身も事務局として聞きながら、メモを取ってばかりでした。特にマネジメント視点に反響がありました。自分自身のキャリア戦略をシートに書き出すワークも、「言語化することでより明確に、具体的にキャリアを考えられた」と好評でしたし、時間が足りない、もっとやりたいという声も上がっているので、延長戦的な座談会も実施しました。

    総じて、ワーキングマザーの方たちは時間がなく、普段は自分自身のことを振り返る時間を持てないので、この1時間で改めて自分は何をしたいのかと考えられたことがとてもよかったと思います。1時間は決して十分な時間ではありませんが、その中で気づきがたくさんあり、次に何をやりたいのかが見えてきたのではないでしょうか。特に、業界、業種の異なる会社の人同士で話すと新たな気づきにもつながります。それは、私自身も実感していることです。

  • -矢野さまにも試しに受けていただきました。どう思われましたか。

    矢野さま
    私が受講した回は、育休から復帰して上司とうまく意思疎通ができないというケーススタディでしたが、これは現実にかなりあるケースだと思いました。上司に言いたいことが言えなくてやりたいことができない。実際に育休から復帰した人たちには、そのあたりをしっかり話せるようになってほしいと思います。ディスカッションを通じて、皆さんのいろいろな考え方を聞けたこともよかったです。育休時期が同じということは、お子さんも同じくらい。同じような境遇の人たちがどうしているか、何を考えているかを知る機会はなかなかないので貴重です。

    育休当時、私は一人で黙々と国家資格キャリアコンサルタントの勉強をしていましたが、それでは他人と話す機会がありませんし、復帰後に、ケーススタディのような思わぬトラブルに直面することもあります。「育休プチMBA」なら事前にケースでシミュレーションができ、プログラム自体もMBAの思考方法などを取り入れているので、何かしら復帰後に活かせると感じました。

  • -御社では女性活躍推進として、具体的にどのような施策をされていますか。

    矢野さま
    女性活躍推進の大きな柱として、冒頭でお話しした通り、2015年から現在では「マドキャリ」と社内で呼んでいる女性社員のキャリア開発支援プログラムを実施しています。部署で将来のリーダー候補の女性を推薦してもらい、一年間のプログラムに参加するというものです。今年度は約200人参加しています。

    プログラムは、OffJTとOJTで構成されています。OJTでの学びを深めるために、まず部署で対象者の役割登用育成計画を立ててもらい、長期的な視点での育成を実行してもらいます。

    また、OffJTでは、様々な研修プログラムを用意しています。「マドキャリ」1年目の人には必ず「キャリアデザイン研修」を受けてもらいます。というのも、メンバーは部署からの推薦で、意識も高い人が選ばれているはずなのですが、なかには能力は十分あるのに、本人が「ちょっと私には…」と高い役割へ就くことをためらうことがあるからです。そこで、まずキャリアデザイン研修で過去の自分を振り返り、そのうえで会社からの期待も理解し、がんばっていこうとマインドセットをしてもらいます。「マドキャリ」を経験することで、長期的な視野に立ったキャリア形成をしてほしいという願いを込めています。

    また、2024年度からは「マドキャリ」の新しい施策として、ヨコのつながりを強化し、テーマ別、等級別など様々な切り口で希望者を集め、月1回程度の頻度でオンラインで話をしてもらっています。取り上げたいテーマも要望を確認しています。育児、介護など様々です。このほかにタテのつながりとして、以前から管理職の女性にお話をしてもらう会を設けることなども行っています。

  • -素晴らしい取り組みですね。少し大きな話になりますが、ダイバーシティ推進や人材育成の現状や構想を教えてください。

    矢野さま
    女性活躍推進については「支援」から「活躍」へ軸足を移していきたいと考えています。実際、復職サポートはかなり充実してきました。支援制度は整っているので、あとは上司としっかり意思疎通を図り、キャリアを充実させてほしいと考えています。両立に関するパンフレットなどを配布し、浸透を図っています。今後は更にセミナー形式などの開催も計画しています。

    女性の採用については近年応募者も増えており、公正に選考するなかで、結果として実際の採用割合も増加しています。結婚して出産する女性には、復帰したその後も、「自分はこうしたい」というキャリア形成への意思を持って働き続けてほしいです。

    そのための施策の一つが「育休プチMBA」で、育休中に勉強したい人への支援として実施しています。復帰後も、育休前と変わらずに会社に貢献したい人やもっと上を目指したいという人を、会社としても応援していきたいです。かつての「復帰してください、働き続けてください」から、今は「活躍し続けてください」へ。これは会社としての期待ですが、発信はまだ足りていないのが現状で、今回の取材もそのメッセージの一つになるといいと思っています。

    様々な施策を行うことで、会社全体の意識をアップデートし、ダイバーシティを推進していきたいと考えています。

  • -最後に、ワークシフト研究所の研修の導入を考えている他社さんに向けたメッセージをいただけますか。

    矢野さま
    当社もこれからもっと受講者を増やしたいと思っているところなのですが、、受講した人たちはすごく満足しています。それは内容もそうですし、同じような境遇にある他社の方たちと交流できる点が良いと考えています。これからますます働く女性が増え、共働き家庭も増えていきます。「育休プチMBA」のような学びの場、交流の場は必要だと思うので、導入を検討してみてもいいのではないでしょうか。

    -どうもありがとうございます。御社の素晴らしい取り組みの話も聞けて、とても有意義でした。ますますの発展を楽しみにしております。

    取材・ライター:山田雅子

  • インタビュー後記

    YKK AP様では、2023年度より「育休プチMBA福利厚生プラン」を導入いただき、育休をブランクとしないキャリア形成の支援を行っています。
    導入から2年が経過し、受講者からは前向きな声が多く聞かれ、育休中の学びの場として着実に効果を上げていることを大変嬉しく思っています。
    今回お話を伺ったダイバーシティ推進グループの矢野雅子様は、自ら手を挙げて推進室の立ち上げに関わってこられた方で、実体験をもとにした取り組みへの熱量と、制度だけでなく「活躍」へとつなげていくという姿勢に、私たちも多くの学びと刺激をいただきました。
    長年続けてこられた社内の施策と育休プチMBAを併用することで、社員一人ひとりのキャリアの選択肢を広げる施策を実現されており、ヨコのつながりを強化する新しい施策や、管理職とのタテのつながりの機会づくりなど、丁寧な仕組みづくりに感銘を受けました。
    育休プチMBAを仕事とキャリアアップの両立をサポートする活躍支援策としてご活用いただいており、今後さらに両立リーダーがご活躍されるだろうと期待しています。(小早川優子)