2026/3/4
開催報告
【開催報告】創業10周年記念イベント 「人的資本経営実現のための人材育成〜真に効果のある研修とは〜」
「人的資本経営実現のための人材育成〜真に効果のある研修とは〜」
10TH ANNIVERSARY EVENT REPORT
株式会社ワークシフト研究所は 2025年12月に設立10周年を迎えました。これを記念し、企業の人事部門・経営企画部門の皆さまに向けた無料の記念イベントを2025年11月18日(火)に開催しました。
近年、「人的資本経営」が注目を集め、企業には人材育成やスキル開発の成果を可視化し、経営に活かすことが求められています。本イベントでは「研修を実施しても成果につながらない」という現場の悩みに真正面から応えるべく、ワークシフト研究所が10年にわたって蓄積してきた知見に外部有識者の視点も交え、「真に効果のある人材育成のあり方」を探りました。
当日は盛況のうちに開催され、活気にあふれるなか、弊所所長であり、静岡県立大学経営情報学部 准教授、国保祥子の基調講演、企業の人事・組織に長く関わってきたパーソル総合研究所上席主任研究員の佐々木 聡氏によるミニ講演に続き、日経クロスウーマン編集部の小田舞子氏も加わり、3名によるパネルディスカッションが展開されました。モデレーターは弊所代表 小早川 優子が務めました。
当日の様子をお伝えします。

SECTION
国保 祥子 基調講演
多様なリーダーの育成が不可欠。自己効力感が意欲を引き出すコツ
人的資本経営における人材育成の重要性と、特に女性管理職の育成に関するエビデンスに基づいた知見を皆さまに共有しました。
- 労働人口減少時代においては多様性を活かした職場づくりが重要。そのためには多様なリーダーの育成が不可欠である。
- 研修は、出したい組織成果から逆算し、どのような行動を引き出したいか、そのためにはどのような心理状態を実現すべきか、それに影響を与える要因は何かと考える必要がある。
- 心理的要因のうち特に自己効力感(=自分はやればできるという自信)が重要で、研究により、自己効力感が高まることで昇進欲も上がることが確認されている。自己効力感を高めるにはリーダー経験などの良質な仕事上の経験が効果的である。
これらのポイントを踏まえ、弊社が提供する復職支援プログラム「育休プチMBA」について、受講者の追跡調査に基づくプログラムの成果を公表しました。概要は以下の通りです。
- ◆復職支援プログラム「育休プチMBA」の効果を受講前後、復職前、復職半年後、5年後の継続調査により測定した結果、受講によって①両立への不安の減少、②両立への自己効力感の向上、③管理職になることへの効力感の向上――が見られました。さらに、両立効力感が高い状態で復職した人は、チームへの貢献行動が見られることが上司の評価からも確認できました。
- ◆この成果は「資源保存理論」で説明できます。受講によって両立効力感を高めることで心理的資源が充実した状態で復職でき、チームのことを考えて行動する余裕が生まれると考えられます。さらに5年後の追跡調査では、昇進した多くの受講生は周囲のサポートを得るために自ら行動(=資源獲得行動)していることが確認でき、心理的資源を高めることで組織にとって適切な行動を引き出せていることがわかりました。
GUEST LECTURE
佐々木 聡氏 ミニ講演
人材投資はP/LからB/Sへと発想の転換が必要
続いての登壇者は、パーソル総合研究所 上席主任研究員 の佐々木 聡氏です。佐々木氏はリクルートに17年間勤務した後、ヘイコンサルティンググループ(現:コーン・フェリー)を経て2013年から現在のパーソル総合研究所にお勤めです。立教大学大学院で客員教授も務めていらっしゃいます。当日のテーマである「人的資本経営」には、まだその言葉がなかった1990年代後半から着目しており、このテーマで著書も出版されています。
ミニ講演では最初に、なぜ現在、人的資本経営が重要視されているのか、その背景と日本企業の現状について説明がありました。1989年には世界の時価総額ランキングで日本企業が半分以上を占めていましたが、30年後には一社も入っていません。GDPシェアでも、日本は1994年の18%から現在は4%まで低下し、ドイツに抜かれ、近々インドやイギリスにも抜かされる見込みです。日本企業は「失われた30年」の間に世界的な競争力を失っており、佐々木氏はその要因の一つとして人材投資の乏しさを挙げました。
日本はGDP比で0.1%しか人材に投資していないのに対し、アメリカは2.2%と20倍の差があります。背景には人材投資への根本的な考え方の違いがあります。日本企業は利益が出たら人材に投資するという損益計算書(P/L)的発想であるのに対し、アメリカ型の人的資本経営は投資家からの資金調達を通じて人材に投資し、利益を生み出すという貸借対照表(B/S)的発想だと説明しました。
佐々木氏によると現在は、投資家が人材投資を重視しているのに対し、企業経営者がそれを理解していないというギャップがある状況だと言います。高度経済成長期の企業と個人の従属関係から、現代の対等な関係への変化に対応するためには、人的資本経営の考え方を変える必要があると強調して講義を締めくくりました。
PANEL DISCUSSION
パネルディスカッション
続くパネルディスカッションでは「人的資本経営を実現する人材育成の最前線」をテーマに、弊所所長の国保祥子、パーソル総合研究所上席主任研究員の佐々木 聡氏、日経クロスウーマン編集員の小田舞子氏の3人が研究、企業実務、メディアの異なる立場から議論を深掘りしました。モデレーターは弊所 代表の小早川 優子が務めました。

ディスカッションでは、主に人的資本経営の実現と人材育成の最前線/組織開発と個人のスキル向上の連携/研修効果の可視化と測定方法/行動変容と意識変革の重要性/職場でのコミュニケーションと関係性構築/女性リーダー育成と管理職への意識変革――といった論点について、活発に意見が交わされました。
最初に佐々木氏から「個人のスキル向上と組織への貢献をつなげることが永遠の課題である」という研修についての問題提起があり、それに対して国保は「企業が戦略的に必要とする人材像を中長期的な視点で持つことの重要性」と「単発の研修で知識を授けるのではなく、時間をかけて意識変革を行い、従業員を育てていくという発想が必要」と知見を述べました。
一方、小田氏は日経BP社で、ワークシフト研究所と共同で「次世代女性リーダー育成講座」を立ち上げ、本講座の運営に携わる中で、自分のキャリアを戦略的に考えるようになり、MBAの取得を模索。約2年にわたって迷った末に実際に決断したと教えてくださいました。その経験から「意識変革と行動変容には時間が必要だった」と振り返りました。
これらを受けてモデレーターの小早川が、意識変革・行動変容をもたらすものは何かと議論を深掘りしました。それに対して佐々木氏は、数々の組織や研修をモニタリングしてきた経験から「当事者意識(=オーナーシップ)を持つ人が3割に達すると変化が加速する」との見解を展開。続けて国保からは研修の効果測定についての話があり、研修実施企業の協力を得て、ビフォーアフターだけでなく介入群と非介入群の比較により、介入の効果を可視化できたと研究成果が紹介されました。
小田氏からは、「次世代女性リーダー養成講座」修了生の活躍の実例が報告されました。受講により大きく内面が変容し、修了生は自ら勉強会を開催したり、新しい取り組みを始めたりするようになっています。「変容には時間がかかるが、変わる時は急激に変わることがある」と経験を話し、変容を促すポイントとしては、研修後の食事会のような非公式な交流の場が重要だと指摘しました。(本研修でも、各回終了後に任意の食事会が開催されています)
この後、研修で得た知識や意識変革を職場に戻った後も維持するにはどうしたらいいかという課題へと議論が広がりました。
国保は、単発の研修では人の行動や意識を変えることが難しく、研修効果を定着させるためにフォローアップ研修などの機会を設けることや、育休からの復職に向けた研修については、復帰後も考慮した研修デザインが重要であると提案。小田氏は、研修中の「余白」として食事会のような非公式な交流の場を戦略的に組み込むことで、知識の獲得だけでなく、人の成長につながるプロセスを増やすのではと指摘しました。
佐々木氏は、人的資本への投資を費用(P/L)ではなく資産(B/S)として捉える考え方がまだ浸透していないことや、人材育成の効果を可視化し、投資対効果を示すことの難しさを改めて指摘。ときには外部メディアを社内向けの広報戦略として活用するなど、「外部刺激」を取り入れることで変化を促進する方法も有効だと提案がありました。
これらの議論を通じて、今後の方向性として以下のポイントが提示されました。
- 人材育成を中長期的な視点で捉え、単発の研修ではなく、複数回の介入を前提とした継続的なプログラムを設計する。
- 研修効果を可視化するために、ビフォーアフターの測定だけでなく、介入群と非介入群の比較など、科学的な手法を取り入れる。
- 組織変革を促進するために、当事者意識(オーナーシップ)を持つ人材を増やし、3割の臨界点を目指す取り組みを行う。
- 研修と職場をつなぐために、上司への働きかけや職場環境の整備を含めた包括的なアプローチを採用する。
- 非公式なコミュニケーションの場(食事会など)を意図的に設け、関係性構築を促進することで、学びの定着と組織文化の変革を図る。
- 女性リーダー育成においては、能力開発だけでなく、自己効力感や意欲を高める心理的アプローチを重視する。
このようにパネルディスカッションでは、研修について最前線の現場の話に学術的なアプローチを交えて有意義な議論が展開されました。
最後に、小早川からワークシフト研究所の10年の歩み、研修と研究の成果、今後の展望をお話させていただきました。女性管理職育成などで成果を上げてきたこの10年間を踏まえ、今後は、組織変革コンサルティング事業の本格化、AI・DX関連プログラムの強化、福利厚生プランの対象拡大などを計画。改めて「働くことでもっと幸せになる社会」の実現を目指すと誓い、本イベントを締めくくりました。








