WorkShiftInstitute

株式会社ワークシフト研究所

〒106-0044 東京都港区東麻布1-7-3
第二渡邊ビル 7階

お問い合わせ

お問い合わせ

2022/10/12

コラム

ダイバーシティがなぜ企業戦略として必要なのか(後編)

さまざまな技術革新や変化が絶えず起こる今、日本が得意としていた同質性の高い組織では勝ち抜くことができなくなっている。それに対応するために、「ダイバーシティ&インクルージョン」というキーワードが聞かれるようになった。前編では、なぜ企業にダイバーシティ&インクルージョンが求められるのかをお伝えした。後編では、ダイバーシティ&インクルージョンを阻むジェンダーバイアスをはじめとするバイアスについて、そのバイアスをどう乗り越えるかについてお伝えする。


1.ジェンダーダイバーシティ

(1)ジェンダー多様化とジェンダーバイアス

経済市場において、ジェンダーダイバーシティの圧力が高まっている。なぜだろうか。ジェンダー多様化には、次のようなメリットがあるとする報告がある。

*組織の管理職におけるジェンダーダイバーシティはイノベーションを活性化させる

*人材不足に向けた、優秀な人材、介護両立人材(現管理職)の維持と活躍

*女性取締役の採用は会計上のパフォーマンスと正の関係がある

*女性リーダーは男性リーダーに比較して、成果と部下の満足度の両方を満たすことができる

*女性が活躍する職場における転職市場での評価が向上している

*女性取締役は多角的な視点をもたらす(戦略の向上、モニタリング効果あり)

*ジェンダーダイバーシティは離職防止効果、社員のコミットメント向上の効果がある

実際、世界10カ国を調査したデータで、女性役員がいない企業と女性役員比率が高い企業(上位4分の1)を比べると、女性役員比率が高い企業のほうが、ROEとEBITマージンが高いという結果が出ている(マッキンゼー調べ)。日本国内のデータでも、女性管理職比率の高い日本企業は増収率(5年平均)、ROE(3年平均)ともに高い傾向にあった(ゴールドマン・サックス調べ)。

一方で、職場における女性管理職比率は上がっていない。背景には「ジェンダーバイアス」と呼ばれる性に関する思い込みがある。代表的なものを2つ挙げる。

*男性と平等かつ正当な評価が得られない

女性がビジネスの場で感情的であると捉えられるなど、正当な評価を得られていないことが挙げられる。これは、男女問わず持っている「男性らしさ」「女性らしさ」のイメージに起因する。例えば「女性には売上・利益の管理より、周囲との関係性の向上を期待する」といった意識を持たれがちといったことがある。

*女性が自分に対して「自分は有能ではなく、自信が持てない」と感じる

これは職場でマイノリティ(少数派)の立場になりがちな女性が、自分自身に対して持ってしまいがちなバイアスである。マイノリティほどバイアスに敏感になりやすく、自身の実力を過小評価する傾向が強くなっている。

(2)組織におけるジェンダーバイアス

ジェンダーバイアスの例を紹介しよう。

ここに上司と2人の部下がいる。部下2人は男女1人ずつである。上司は心からこの2人の部下に成長してほしいと思っているが、意図せず男性と女性で部下に出すアドバイスが変わってしまうという例である。

一つ目は育成方法である。
男性の上司は男性部下に対して戦略や財務などが重要だとアドバイスをすることが多いのに対し、女性部下に対しては「巻き込む力」や「部下のモチベーション」などに関するアドバイスをしがちになる。このアドバイスに従っていると、数年後にはそれぞれの得意分野が変わってくる。これはジェンダーバイアスのよくある例で、無意識でやっているうちにこうした結果がもたらされることになる。

二つ目は機会の不平等である。
チャレンジングなポジションが一つあった場合、上司は前例にならってどちらかをアサインすることが多いものだ。これまでマジョリティがこのポジションを占めていたら、同じようにマジョリティ(多数派)を選ぶ可能性が高い。マジョリティは潜在力を評価されやすく、機会を得やすい傾向にある。

三つ目の例は、部下からのジェンダーバイアスである。
男女限らず多くの部下は女性の上司に対して、「女性だから」という理由で「男性上司より自分の話をよく聞いてくれるはず」といった期待をする。この場合、もし「話をあまり聞いてくれない」「自分を理解してくれない」となると、例えその女性上司がほかの男性と同じ仕事をしていたとしても、女性上司のほうが部下からの評判が下がってしまう。リーダーの性別によって印象、評価が変わることがあるのだ。

四つ目の例は性別的役割分担のジェンダーバイアスである。
男性に対するジェンダーバイアスという側面もある。家庭内のケア労働(育児、介護)は女性が担当するというバイアスにより、時短勤務など育児と両立して働く女性に対する理解は進んできた。他方、育児と両立する男性、特に男性の時短勤務への理解は進んでいるとは言い難い。この両立のしやすさの男女差はジェンダーバイアスによるものである。

ジェンダーバイアスは誰でも持っている。マイノリティのほうが強く感じる傾向にあり、逆にマジョリティの立場にいるとこのジェンダーバイアスが見えない。そのため、悪気なく発言や行動に出てしまうこともある。

ジェンダーバイアスの一つひとつは小さなことでも、積み重なると大きな影響を及ぼす。ある調査(*1)によると、管理職になりたい女性が一定数いても、5年間ジェンダーバイアスにさらされると管理職に対する意欲は5年前と比べて半減するという。男性はほぼ変わらないこともわかっている。

*1 独立行政法人国立女性教育会館「男女の初期キャリア形成と活躍推進に関する調査研究 令和元年度」

解決の糸口は、目の前の女性に対して何か相談されたときなどに「目の前の人が男性だったら同じことを言うだろうか」と考えることである。そうすることで、ジェンダーバイアスから解放され、多様化社会の実現に近づくことができるのだ。

ジェンダーバイアス

~ 女性社員を減らしますか? ジェンダーバイアスを減らしますか? ~

・誰でも持っている(持っていない人はいない)
・マイノリティ(少数派)のほうが強い傾向がある
・マジョリティ(多数派)の無意識、悪気のない発言、行動
・小さな積み重ねによって女性のチャレンジ意欲、モチベーションを低下させる(管理職に対する意欲は5年で半減する )
・バイアスは成績にも影響する *2
・解決の糸口:一呼吸おいて「相手が違う性だったら同じように思うか?」と考える

 *2 クロード・スティール「ステレオタイプの科学」

2.さまざまなバイアス

(1)世代間格差と男性の育児休業

働き方や働くことへの価値観について調査を行うと、最近では、男女差以上に世代間の差があることがわかっている。境目は38歳で、38歳以上の層と37歳以下の層で大きな差が見られる。世代間格差とは常識の違いのことで、子どもの頃に触れていたテレビ番組や義務教育の科目などに影響されていると考えられている。

違う世代の常識は理解しづらいことから、同調圧力の強い組織では38歳以上のリーダー層が下の世代に無意識のうちに自分たちの常識を押し付けることになりがちである。その結果、優秀な若手から離職するという事態につながっていく。

男性の育児休業に関する意識も大きく変化している。都内の有名私大で男性学生に実施したアンケートでは、約8割が将来育児休業を取りたいと回答した。40代、50代の世代の多くは育児休業を取る=仕事に対する責任感がないと考えるが、それは間違いだ。20代など若い世代は義務教育では家庭科が必修で、育児に対して自分の仕事であるという意識が強まっている。むしろ責任感の強い人ほど、育児休業を取るという気持ちも強いのだ。

政府も2022年4月から、企業に対して男性従業員の育児休業取得を義務付けている。これは例えば、男性のメンバーが育児休業取得を希望したとき、管理職が拒否したり断念させるようなことを言ったりすると、ハラスメントとしてコンプライアンスに関わる案件になることを意味する。

このような社会の変化により、必然的に育児休業を取る男性は増えるだろう。組織にも以下に挙げるようなメリットがある。

 *業務効率化の実現による生産性向上
 (業務の効率化・形式知化が進む、業務の属人化の改善、業務の再分配が欠員リスク対策となる)

 *人材育成の機会
 (引継ぎ担当者の職務遂行能力の向上、管理職の業務管理力や人材育成力の向上、育休者本人のリーダーシップの向上)

 *多様化組織の実現
 (両立人材の活躍に向けた意識変革、新たな価値創造を促す)

男性の育児休業取得は、本稿のテーマである多様化組織の実現にもつながる。既存の知と新しい知の融合とは、人と人の融合だけでなく、自分の中での既存の知と新しい知の融合も含まれる。育児休業という今までにはない経験が、新しい知となって融合を起こすのである。また、多くの新しい経験をした人が組織に戻ってくることで、組織の中でも既存の知と新しい知の融合の機会が増えることになる。男性育休は、多様化組織に向けた意識変革の大きなきっかけになると言える。

人口動態でも明らかなように、現在の20代は、40代・50代と比べるとマイノリティである。無意識のうちに、既存の組織や常識に不信感を持ちやすい。組織のマジョリティである40代、50代には、意識してコミュニケーションの中に信頼関係を結ぶための会話を入れてほしい。男性育休はいずれ介護との両立にもつながるので、積極的に進めるとよいだろう。

世代間格差 若者世代

~男性が育休を取り、育児との両立しながらキャリアを構築できる組織へ~

・マイノリティであるため既存の組織や常識に不信感を持ちやすい
・年功序列の概念、性別的役割分担の意識が薄い
・男女共に家庭の仕事(家事、育児)に対する責任感がある
・職位が上がることより「働きがい」「成長」を重視する
・自分の意見を強く主張しない。合わなければ去る
・「ゆとり世代」という括りは統計的差別であり、今やNGな考え方

(2) LGBTQ

LGBTQとはトランスジェンダー、性的マイノリティなどと呼ばれる人々である。日本でも生産人口の約7%、13人に1人が該当すると言われる。意外に多いと感じるのではないだろうか。そう感じるのは、LGBTQである人が周囲にそれを偽って過ごしている可能性が高いからだ。もちろん性的嗜好を公表する必要はない。
しかし何らかの偽りが必要ということは、自分の価値観がそのまま受け入れられて伸び伸びと活躍できる=ダイバーシティが実現されている組織ではないということである。LGBTQの人々が自らを偽らずに安心して働ける状況か、今一度考えてみてほしい。

(3)介護

介護をしながら管理職を務める人を増やすことは、これからの組織において重要である。介護問題は見えにくく、現在多くの企業で「隠れ介護者」が発生し続けていることがわかっている。介護する世代は現在40代、50代が多く、最近は30代も増えている。

「働き盛り」に該当する年代だが、現在は両立しながら働くための知見が個人にも組織にも蓄積されていない。無理をしてやりくりしている人が多く、隠れ介護から体調を崩して退職に至り、再就職ができない元管理職が増えている。特に男性に多い。

介護と仕事の両立は、前提として子育てとの両立ができている組織でないと実現は難しい。というのも介護問題は見えにくく、さらに育児と異なり、いつから始まっていつ終わるのか不明であることが制度化を難しくしているからである。人の意識変革に頼る部分が多いのが現状だ。となると、介護をしながら管理職を務める人が自然に存在する組織をつくるには、今からいろいろな局面でダイバーシティを進めていく必要があるということになる。

3.まとめ

(1)ダイバーシティ&インクルージョン

多様化への道に重要なのは価値観のダイバーシティで、そのためにはマイノリティが発言しやすい状態をつくる必要がある。一方で、人間は気づかない間にマジョリティの罠、マイノリティの罠に陥るものである。マジョリティの罠とは鈍感になること、マイノリティの罠とは既存の組織などに不信感を持ちやすいことだ。自分がこうした罠にはまっていないか、今一度考えてみたい。

変わるべきはマジョリティである。大多数の人が変わらなければ、組織は変わらない。ほうっておくと組織は同質化していく。常に多様化を意識し、マイノリティの意見が発信しやすい状態になっているかを考えることが重要である。

ダイバーシティ&インクルージョンまとめ

〜多様化への道とは〜

・大事なのは「価値観のダイバーシティ」
・ダイバーシティの鍵は少数意見の尊重
・マイノリティが発言できる状態をつくる
・傾向、性別、国による決めつけはNG
・違う意見が出たときは対話する
・誰もがマイノリティの立場になる
・人間は気づかないうちにマジョリティの罠、マイノリティの罠にはまっている
・変わるべきはマジョリティ。ここが変わらなければ何も変わらない
・「差別はない」「差別は気にしない」と言えるのはマジョリティの証拠
・ほうっておくと組織は同質化していく(常に多様化を意識する)

(2)多様化の壁

多様化の壁となるさまざまなバイアス(思い込み)を列挙した。

*ジェンダーバイアス

*マジョリティバイアス

*マイノリティバイアス

*合意バイアス(マイノリティは自分に不利益な交渉でも合意しないといけないと考える)

*敵バイアス(自分の反対意見を言う人は「敵」と認識する)

*近接性バイアス(同じ場所にいる社員を高く評価する。在宅勤務と出社勤務のハイブリッド組織に起こりやすい)

これらのうち、特にダイバーシティ実現の妨げとなるのが、敵バイアスである。人間は無意識に異質な人を排除する気持ちを持ちがちだ。自分と違う意見を言う人を無意識のうちに敵と思い込んでいないか、相手に対する感情を一度、疑ってみることが大切である。逆に、同じ場所にいる社員を高く評価してしまう「近接性バイアス」もある。

マジョリティ、マイノリティそれぞれの立場で気をつける点にもまとめておこう。

マジョリティがまず認識すべき点は、自分がマジョリティであることになかなか気づかないということである。一方で、マジョリティが知らない間にマイノリティになる可能性があり、そのときになって気づくことが多い。マイノリティは発言しにくいものだと理解し、発言を促す、発言を遮らない、マイノリティの数を多くする(3割以上)、反対意見を歓迎するということを心がけてほしい。

マイノリティの立場の場合、もし発言しにくいと感じるなら、マイノリティの罠にはまっているかもしれない。相手側は、あなたをマイノリティと思っていない可能性があるため、あまり意識しすぎないことだ。それでも不安や違和感が抜けない場合は、味方をつくることも有効である。

このように、多様化組織とは企業の成長、イノベーション促進の重要な鍵となる。価値観の多様性が保たれる組織は、一人ひとりが自主的に行動しなければ維持できない。誰もがバイアス(偏見)を持っていることを前提に、他者の状況を想像する視点を持つようにしたい。

多様化の壁 まとめ

~ D&Iの実現が会社の発展を後押しする

・多様化組織は企業の成長、イノベーション促進の手段
・価値観の多様性が保たれる組織(対話できる組織)をつくる
・マイノリティが発言しやすい組織が強くなる
・ダイバーシティ組織は社員一人ひとりが自主的に行動してつくっていくもの
・バイアス(偏見)は誰でも持っていることを前提に考える
・他者の状況を想像する視点を持つ

ニュース一覧