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2022/9/13

コラム

ダイバーシティがなぜ企業戦略として必要なのか(前編)


 

さまざまな技術革新や変化が絶えず起こる今、日本が得意としていた同質性の高い組織では勝ち抜くことができなくなっている。それに対応するために、「ダイバーシティ&インクルージョン」というキーワードが聞かれるようになった。そもそもなぜ企業にダイバーシティ&インクルージョンが求められるのか、そして企業の成長・発展のための戦略としてどれほど重要なものであるのか、実現のために企業は何をすべきなのか、2回に分けてお伝えする。


1.ダイバーシティ&インクルージョンとは何か

 

そもそもダイバーシティ&インクルージョン(D&I)とは何か。

ダイバーシティとは「多様化」、インクルージョンとは「包括」のことである。組織にあてはめると、「多様な」性別、年齢、スキル、背景、働き方、価値観、宗教、考え方をもつ同質でない人たちが、遠慮なく多様な意見を交換することができる状態であり、D&Iを実現している組織とは、このような新しい組織の形を指す。ポイントは、マイノリティ(少数派)が遠慮なく意見表明できることだ。

そもそも、なぜ組織においてD&Iが必要なのか。背景には、産業構造の変化に伴う社会の変化がある。周知の通り、2000年前後までの日本は、主に製造業で成功を収めていた。ものづくりの現場では同質性の高い組織ほど生産性が高い。そこで注力されたのが、メンバーシップ型雇用など同質性を高める組織づくりであった。しかし、2000年以降はサービス業が台頭し、市場に与える影響力が大きくなる。サービス業には、新たな価値創造(イノベーション)が必要とされるため、イノベーションを生みやすい組織が求められるようになったのである。

イノベーションとは、既存の知と新しい知の融合で生まれるものである。つまり、これまで常識だと思っていたものに異を唱えることが必要であり、異を唱える機会が多いほど、イノベーションは生まれやすくなる。そのためには、同質性を追求した組織にはいなかった人たちを積極的に組織に入れ、融合の機会を増やすことが必要となる。

また、今後の社会を考えるうえで、キーワードとなるのが「VUCA」だと言われている。

これは、Volatility(変動制)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を並べた言葉で、今後さまざまな環境変化や技術革新などが起こるなかで、何が正解かわからない社会になることを表している。

企業はVUCAの社会を見据え、幅広い変化に対応できる組織でなくてはならない。起こった変化に対して受動的な対応をするのではなく、起こり得る変化を見越し、社会環境に対して能動的に企業を変化させる「戦略」が必要となる。

IT、グローバル化、情報、感染症、世代格差、男性以外の意思決定者の増加などさまざまな面で、市場も顧客も多様化している。それに伴い、組織も多様化していかなければならない。企業規模が大きくなるほど、多様化への対応は不可欠になる。とりわけ今後の社会では、ジェンダー多様化への圧力が高まっていくと考えられる。すでに役職者の一定割合以上を女性とする方針を示している企業、団体も出てきている。特に世界市場をターゲットとしている企業においては、市場へのアピールも含めてそのようなメッセージを発している。成長戦略の一つとして、ジェンダーダイバーシティの重要性が高まっているのである。

以上のように、サービス業の発展になくてはならないイノベーションを起こし続けるには、その仕組みとして多様化した組織が必要となる。かつての同質性の高い組織から、少しずつマイノリティが増え、それぞれの属性に応じた配属や働き方がなされているのが現在の組織である。今後はスキルや意欲で配属が決まり、どの部門にもさまざまな属性の人がいる多様化した組織になっていく。そして、多様な人と人との間のコミュニケーションを増やすことで、既存の知と新しい知の融合を増やしていく。

実行は、簡単ではない。お金、時間、手間といったコストもかかるが、競争優位性の源泉として多様化した組織が必要だ。また、制度としてつくるものではなく、運用や一人ひとりの意識によって実現するものでもある。M&A、新規事業、DXなどは多様化組織との相性がよい。企業活動において必要なこれらの戦略を成功させるためにも、多様化組織が必要となる時代が来ている。

企業の成長、発展としてのD&I

*5年後10年後を見据えた戦略の一部

*達成にはコスト(時間、オペレーション含む)がかかる

*戦略を達成するための投資である

*M&A、新規事業、DXと同様に失敗があるが、継続していかないと成功もない

*全ての社員に恩恵があり、社員一人ひとりが行動すべき

 


2.ダイバーシティ&インクルージョン実現に向けて

(1)ダイバーシティの恩恵を受ける人

組織のダイバーシティが実現したときに恩恵を受けるのは、短期的には、「マイノリティ」といわれる以下のような人たちだ。

*LGBTQ

*車いす利用など、身体的特徴を持つ社員

*出産の可能性がある社員

*介護と両立する(可能性がある)社員

*管理職、リーダーの女性社員

*男性育休取得者

*持病と両立する社員、管理職

*転職してきたばかりの社員

*出戻り転職した社員

*セカンドキャリア:若年の管理職の下で働く元管理職

このうち一つでも当てはまる人には恩恵がある。5年後、10年後まで想定すると、すべての人たちが何かしらに当てはまることだろう。特に現在30代、40代で、今後、介護をする可能性がある人には、もっとも恩恵があると予想される。

介護と仕事を両立する人の多くは管理職の年代で、現時点ではまだ多くないかもしれない。ただし、今後は介護と両立するすべての人が活躍し続けられなければ、日本の社会や企業にとって大きなダメージとなる。なぜならば、ただでさえ労働人口が減っていく日本において、働き盛りの人材が抜けてしまうことになるためだ。これから介護に当たるリーダー層や働き盛りの人たちが、仕事との両立ができる組織にしていかねばならない。

(2)ダイバーシティとインクルージョン

改めてダイバーシティとは何か、経営学的視点で整理しよう。

ダイバーシティには2種類ある。一つは性別、人種、国籍、年齢、身体的特徴など可視化しやすい違いに基づく表層的ダイバーシティ、もう一つがスキル、能力、思考、視点、宗教、思想、働き方など可視化しづらい違いに基づく深層的ダイバーシティだ。イノベーションには「多様な価値観」が必要なので、特に深層的ダイバーシティの実現が重要となる。

なかには、表層的ダイバーシティだけを実現して満足している組織も見受けられる。深層的な考え方や価値観なども本当に多様化しているか、問いかけてみる必要がある。とはいえ、多様な人がいる表層的ダイバーシティが最初の一歩ではある。そこからさらに踏み込んで、深層的なダイバーシティが実現されていくのだ。

ただし、ダイバーシティが実現されるだけでは不十分である。さまざまな価値観があるだけでは、対立が起こりやすくなるからだ。そこで必要なのが、インクルージョンという概念になる。インクルージョンとは、ほかの人の立場に立って、その人から見える景色を見ること、そして別の視点から見える景色は違うと理解することである。

以上のことから、イノベーションを生む多様化組織とは、多様なバックグラウンドを持つ人(性、国、宗教、など)同志がマイノリティであっても自分自身の価値観を維持しながら活躍できる組織であり(=ダイバーシティ)、自分とは違うバックグラウンド、違う価値観を持つ人同士が、常に相手の価値観を学び、理解し、受け入れ、考慮することが当然である組織(=インクルージョン)となる。

では、違う立場での意見が出やすくなり、イノベーションを生む議論に発展するには、意思決定の場にどの程度のマイノリティ層がいるとよいのだろうか。一般に30%または3分の1と言われている。10%では多数派に迎合して発言を控え、20%では発言しても軽視されやすく、30%でようやく「価値ある違う意見」として議論のきっかけになる。これは「ダイバーシティの黄金の3割」(Kanter, 1977)と呼ばれている。

D&Iとは何か

*重要なのは価値観の多様性

*外見の多様性は、価値観の多様性を高めるための手段に過ぎない

*個人の多様な視点の獲得が鍵

*「ダイバーシティ」は「女性活躍」ではない。「全ての個人の活躍」である

*「マイノリティ」が発言しやすい環境

*マクロの策として「黄金の3割」は有効(クオータ制)

⇒マクロとミクロとでは解決策に矛盾が出る場合がある。優先度、マネジメントの兼ね合いを踏まえて計画をしっかり練り、準備する


 

ダイバーシティがなぜ企業戦略として必要なのか(後編)に続く

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