WorkShiftInstitute

株式会社ワークシフト研究所

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2022/8/10

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トークセッション 両立人材とダイバーシティ経営(後編)

ワークシフト研究所は、リーダー層のダイバーシティ実現を目指した人材育成、トータルサポートを行っています。今回は、2021年12月21日に開催したウェビナー「ワークシフト・カンファレンス 2021」から、ジャーナリストで大学で教鞭もとられている白河桃子氏、経済学者の山口慎太郎氏をお迎えして行ったトークセッション「両立人材とダイバーシティ経営」の内容を、前編、後編の2回でお伝えします。

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【パネラー】

白河 桃子氏
ジャーナリスト。「女性×働く」をテーマに著書多数。内閣官房「働き方改革実現会議」など働き方、少子化などの領域で委員として多数の政策策定に参画。相模女子大学大学院特任教授、昭和女子大学客員教授、iU情報経営イノベーション専門職大学超客員教授

山口 慎太郎氏
東京大学大学院 経済学研究科教授。専門は男女共同参画や子育て支援、教育政策などの経済・統計分析。内閣府・男女共同参画会議議員も務める

【モデレーター】

国保 祥子
株式会社ワークシフト研究所 所長、静岡県立大学経営情報学部准教授

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一部の人に利する両立支援の限界。目指すは誰もが柔軟な働き方ができる制度

国保

育休については、「一部の恵まれた人たちに向けた制度だ」、「自分たちには関係ない」といった周りの人の不満があります。これは、例えば男性育休を推進している企業では起きないのでしょうか。白河先生が研究されている領域ですね。

白河

昨年、育休を取っている、または取っていた人と一緒に働いている男女300人にアンケートを取り、「お互い様」の限界が見えてきました。回答者の過半が、過去も制度を利用していないし、今後も利用しないという人です。結果は、「不満がある」と答えている人が全体の2割、「負荷が高い」と答えている人が全体の3割いました。制度利用者が少ないうちは、情報共有や、上司がうまく仕事を割り振るなどの属人的なもので解決できましたが、制度利用者が増加または長期化すると、これでは吸収できなくなるのです。

結局、今の企業のワークライフバランスの制度は、子どもを持っている人や介護をしている人だけのためのものになっていますが、これこそが変えなければいけないことです。本来なら両立は誰にでも必要なもので、勉強したい人もいれば、趣味に時間を費やしたい人もいます。すべての人のための柔軟な働き方が、今後の職場を支えていくしかないという結論に達しました。

男性育休はその一環です。今まで、両立は男性のためではありませんでした。初めて企業や社会が、それに向き合う契機になると思います。ただし、やはり周りの人にはしわ寄せが来るので、その人たちにも報いることが必要です。最終的には、誰もが柔軟な働き方ができる制度が望ましいですが、今のコンフリクトを解消するには、お金と評価で報いることが重要と考えます。

国保

それが、善意や好意ではカバーしきれないフェーズですね。コンフリクトが大きくなる「しきい値」のようなものはありますか。企業の方と話していると、特例対応が増えると不満が増えてくることがわかるので、「この辺りに達すると次のフェーズに移行すべき」という基準が示されることは重要と思います。

白河

インタビュー調査で感じたのは、10%の人が両立支援制度を使うようになる段階でしょうか。例えば資生堂ショック(=育児中の美容部員にも遅番と土日勤務を求めた資生堂の制度改革)は、最初のしきい値を超えたことで起きました。やはり、女性社員が多い会社からしきい値を超えていくのだと思います。この辺りはぜひ、山口先生に研究してほしいです。エビデンスがあるとすごくいいと思います。

聞き取り調査をしているなかで、育休や時短をカバーしているチームに、短期業績評価でボーナス時に少しお金をあげたという企業がありました。そこは、社員から不満が出たそうです。子どものいない人たちからは「私たちには何の制度もないんですか」、それから男性の若い社員からの不満も多く、「なぜ女性の社員だけが制度を使えるんですか」、配置や転勤も「なぜ子育て中の女性だけが配慮されるんですか」と。もう若い方たちは、そのような意識になっているのだと実感しました。

山口

育休をとる人や子育て世代だけが優遇されているという不満は、やはり多くのところで聞きますし、アンケートでも出てきます。私は、男性育休は通過点だと思っています。白河先生のご指摘のように、自己研鑽にも趣味にも時間を使いたい。最終的には、いろいろな時間の使い方を許容することに持っていく、今は過渡期なので、そこの不満は避けがたいと思っています。

そこに至るにあたり、一つの大きな壁は属人的な仕事の進め方です。属人的な仕事は潜在的に大きなリスクも抱えています。一つは育児や介護、あるいは事故や病気など様々な理由で従業員は抜ける可能性があること。デンマークの研究によると、事故や病気で抜けた場合は、企業の業績に悪影響が出ています。特に中小企業で顕著です。一方で、育休のように何カ月も前から抜けるとわかっている場合は、悪影響は出ていない。ここからわかることは、充分に対応を準備すれば、育休が会社の利益にマイナスになることはないということです。

ほかにも、属人的な仕事は不正の温床になりやすく、また、仕事の質にバラツキが出ることも、会社として好ましくないでしょう。従って、属人化を排した多様性を発揮しやすい職場作りは、やはり生産性にもプラスにつながっていくと考えられます。

国保 なるほど。人が抜けることを前提とした仕組み作りが、企業のリスクヘッジとしても重要ですし、例えば、男性育休という形で抜けることが当たり前になっていれば、急に病気や事故で誰かが抜けたときのダメージも、比較的最小限に抑えられそうだということですね。それは本当によくわかります。

男性育休は働き方改革実現に向けたチャレンジ。家庭も巻き込んだ支援が有効

国保

一方で、男性の育休が2週間程度だと、現場の頑張りで乗り切れてしまいます。1カ月など、覚悟を持って仕組みを作れるような長さで抜けないと、本質的な問題の解決にならないようにも思います。

白河

会社が、男性育休をどのようなチャレンジに結び付けるか、しっかり意思を表明することが大事です。積水ハウスの例では、『家族ミーティングシート』というものがあり、家庭内でも今後の長い子育てをどうやっていくか、話し合って奥さんのサインがないと育休が取れません。もちろん、職場の引継ぎのこともしっかり書いて提出します。素晴らしい取組です。

これをそっくり真似しているのが、公務員の男性育休の取得です。厚生労働省のホームページにある制度のリーフレットがよくできていますし、人事院には、取得計画シートなどの書類が一式、用意されています。これらは、積水ハウスにヒアリングし、そのノウハウをすべて吸収して公開しているものなので、ぜひ、みなさんにも、自分の職場用にダウンロードして使ってほしいと思います。

長時間労働の是正のときも、属人化が働き方改革のいちばんの敵だと提言してきましたが、今回の男性育休も、まさに一つの働き方改革です。これを属人化解消、生産性アップのチャンスにしてほしいと思います。

国保

今、お話に出た家族内でのすり合わせについても、少し掘り下げていきたいと思います。恐らく、女性もこれをきっかけに変わるべきで、例えば男性に家事や育児を任せるとき、女性が今までやってきた丁寧なやり方を期待するべきではないのかと思います。それこそ高いレベルの家事は属人性が高く、そのような家庭の回し方を変えていく覚悟を、女性も持つ必要があるのではないでしょうか。山口先生が、その辺りをご著書で触れていらっしゃいました。

山口

そうですね。何の準備もせずに一カ月の育休に突入したら、それこそ何しに来たのか、何のために育休を取ったのかという話になると思います。そこに対する備えも、海外では用意されています。カナダで、私自身が経験した範囲でも、例えば地域で両親学級のようなプログラムがありました。日本は、会社で用意してくれているところもいくつかあるので、それをうまく活用して、これから何が起きるのかを十分にシミュレートし、一カ月をどう過ごすか、夫婦間の話し合いが非常に大事になってくると思います。

国保さんが指摘された、自分と違うやり方を受け入れることも、個人的には非常に大事なポイントだと感じています。夫婦間で、相手のやり方を尊重しないで「それは違う」「そうやるな」などと言ったら、まったく協力関係は成り立ちません。家事のやり方、育児のやり方に多様性を認めることは、子どももいろいろな価値観があると知ることができ、発達にもいい影響があると考えています。

白河

育児に関しては、最初からそろえることも重要かと思います。フランスでは、父親と子どもの受け入れのための休暇がありますが、そのときに病院で、沐浴の仕方、ミルクの飲ませ方などのスキルの伝授を夫婦そろって受けるのです。すると一応、育児の初心者である二人に、教えられた知識の差はないことになります。まあ、心構えの差はありますが、それでも経験した友人に聞くと、休暇期間を経て夫が随分と変わり、一緒にやるようになったそうです。日本でも、フランスをモデルに2022年10月から産後パパ育休が新設されます。この時期をうまく活用してほしいと思います。

国保
ありがとうございます。今日のお話を図解します。
今の職場や経済制度は、性別分業に基づいた仕組みができあがっていて、これは家庭における性別分業に支えられています。これらを前提に社会制度ができあがっています。職場における多様性は重要で、そのために職場の改善が必要なのですが、一方で、私たちは家庭内で何らかの働きかけができます。逆に、職場の在り方がそのまま家庭に持ち込まれ、受け入れると、職場の在り方がより強化され、それが巡り巡って社会制度に反映されていきます。なので、この構造を変革するには、職場を変えることと同時に家庭を変えることも第一歩になるということで、まとめとしたいと思います。本日はありがとうございました。

 

アファーマティブ・アクションについて

ウェビナーでは、参加者の方からアファーマティブ・アクションについての質問が寄せられました。社内では能力不足の女性の管理職登用への反対が根強い――と訴える質問者に対する各氏の回答は以下の通りです。

白河

私は、複数人を上げるなら有効だと思っています。実際、候補が3人出るまで待ったという企業もありました。クリティカルマスという言葉もありますが、やはり3割を超えないと自分の意見が言えないからです。

能力不足については、そもそも求められる能力が、24時間を仕事に捧げられる昔の男性用に設計されている場合が多いので、まず、その能力とは何か言語化する必要があります。外資系企業などではスキルセットがしっかり決まっています。能力の言語化、そして上げたら、現状ではマイノリティなので、支援して寄り添っていくことが重要です。

山口

女性の登用についてはヨーロッパが先行しているので、アファーマティブ・アクションによる組織のパフォーマンスの変化についても、様々な研究がなされています。能力については、男性の評価基準にそもそもバイアスがかかっている場合があるので、アファーマティブ・アクションのような強い形を入れない限り、バイアスを正すことができない。このような理由で導入を正当化する研究結果があります。

もう一つは、女性に下駄をはかせると組織のパフォーマンスが落ちるという懸念について。スウェーデンでは、政治の比例代表の名簿は男性と女性を交互に入れないといけません。必然的に当選者が男女半々になります。検証すると、能力指標で見る限り、新しく入った女性議員の質が低いとは確認されませんでした。同時に、無能な男性が追い落とされたことがわかっています。それまで何となく男性を選んでいましたが、優遇する余裕がなくなり、能力ベースで選ばざるを得なくなった。結果、政党としてのパフォーマンスは上がったことがわかっています。私は、日本においても政治は特に、ファーマティブ・アクションを導入する必要があると感じています。

また、取締役会に女性の割合を一定数義務付けたノルウェーでも、能力指標で新たに入った女性の質が低いとは確認されませんでした。

国保

私も以前、この質問をいただいたことがあります。ただ上げるだけでなく、なってからのサポートは男女ともに必要だ、そこまでやって初めて能力を評価すべきだ――と答えました。

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