WorkShiftInstitute

株式会社ワークシフト研究所

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2022/8/9

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トークセッション 両立人材とダイバーシティ経営(前編)

ワークシフト研究所は、リーダー層のダイバーシティ実現を目指した人材育成、トータルサポートを行っています。今回は、2021年12月21日に開催したウェビナー「ワークシフト・カンファレンス 2021」から、ジャーナリストで大学で教鞭もとられている白河桃子氏、経済学者の山口慎太郎氏をお迎えして行ったトークセッション「両立人材とダイバーシティ経営」の内容を、前編、後編の2回でお伝えします。

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【パネラー】

白河 桃子氏
ジャーナリスト。「女性×働く」をテーマに著書多数。内閣官房「働き方改革実現会議」など働き方、少子化などの領域で委員として多数の政策策定に参画。相模女子大学大学院特任教授、昭和女子大学客員教授、iU情報経営イノベーション専門職大学超客員教授

山口 慎太郎氏
東京大学大学院 経済学研究科教授。専門は男女共同参画や子育て支援、教育政策などの経済・統計分析。内閣府・男女共同参画会議議員も務める

【モデレーター】

国保 祥子
株式会社ワークシフト研究所 所長、静岡県立大学経営情報学部准教授

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多様性をプラスに変える管理体制の実現が日本企業の課題

国保

最初に課題を整理するために、ダイバーシティの捉え方、ダイバーシティは経営学の世界ではどのような見られ方をしているか、私からお話します。

ダイバーシティにはいろいろな整理の仕方があります。一つは「種類」。
これは職場の組織における経験やスキル、知識の面での多様性を表しています。組織にとっては価値の源泉です。企業はこの多様性を実現したいと考え、人材採用や能力開発を行っています。

ところが現在の社会では、少子化で人材がどんどん足りなくなっています。種類の多様性は、かつてはすべて男性で、24時間すべてを仕事に費やせる人たちで実現できていました。しかし、今はそのような時代ではありません。このような職場のダイバーシティを実現しようとすると、性別や国籍の多様性も、仕事や時間、収入などに対する価値観の多様性も同時に内包されることになります。

従業員の属性構成が多様化すると、組織の中に性別、国籍などのサブカテゴリーが生まれます。価値観の違う人が混じることでコンフリクトが発生し、上位集団である職場、会社に対する帰属意識やコミットメント、意欲が低下しかねません。これが、ダイバーシティがネガティブに働くメカニズムです。このメカニズムをいかに解消するかが、これからの職場に必要な管理の観点となります。

多様性と管理体制の概念をモデル図に示しました。育休取得者など多様な働き方の対象者が少ないうちは、職場の好意で例外的に対処できました。しかし、対象者が増えると好意では対処しきれなくなり、不満や遠慮が増大するということが、今、日本の多くの職場で起こっている現象です。放置すると、ダイバーシティはネガティブに作用します。これをポジティブに変換し、生産性をプラスの方向に向かわせる管理を実現することが、現在の日本企業の喫緊の課題となっています。ただし、これらはまだ方法が確立していません。本日はこの辺りを白河先生、山口先生にお話を伺いながら、探っていきたいと思います。

白河

私は、「女性×働く」をテーマにいろいろな本を書いています。そのなかで、ジェンダー格差による様々なアンコンシャス・バイアスが変わらないとどうにもならないと思うようになりました。今は、周囲を変えるために、政策提言も含めて活動しているところです。また、去年、修士論文を書きまして、そのテーマがまさに「両立支援制度を使う人と周囲のコンフリクト」でした。今日はその話もします。

山口

私は経済学者で、アメリカで学位を取り、そのあとカナダに11年いました。北米生活では女性管理職が多く、最初の職場は学部長が女性、指導いただいた先生も女性。女性が活躍するのは当たり前の環境にいたので、日本に帰ってきたときに大変驚きました。

カナダでは、ダイバーシティの重要性が今一つピンときていませんでした。なぜなら、それは当たり前にあることだったからです。ところが2017年に日本に帰ると、50人程の教員のうち1~2人しか女性がいません。また、大半が学部からずっと東大にいる方で、同じ発想しか出てきません。大学を取り巻く環境はどんどん変わっているのに、ダイバーシティの足りない組織では、新しいことをするための経験も知識も不足してしまいます。日本に帰って初めて、ダイバーシティの重要性を個人として実感するようになりました。

研究面では、「女性が労働市場でもっと活躍したら、日本の経済はよりよくなるのではないか」という問題意識を持って取り組むうちに、ダイバーシティや男女共同参画などへと研究対象がどんどん広がってきている状況です。

リスク回避としてのダイバーシティ。同質性の高い組織に潜む危険

国保

ダイバーシティが実現されていないことで、どのようなデメリットがあるか、どのあたりにダイバーシティの必要性を感じるか。お考えをお聞かせください。

山口

個人的な経験からお話します。組織で新しい取組が求められたときに、ダイバーシティで本当に重要なのは、男女比や人種比をそろえることではなく、経験やスキルに対して多様性を持たせることだと痛感しました。というのも他所の組織でいいやり方をしていたり、海外では根本的に違う発想で物事に取り組んでいたりするのですが、生え抜きでずっと同じ組織にいると、まずそのようなことの存在を知りません。外部の仕事上のネットワークも乏しいので、誰に聞いたらいいかもわかりません。そして、いざ変化を入れようとすると抵抗を示しがちだったからです。

恐らく、このようなことは多くの日本の大企業で起こっているのではないかと思います。エビデンスとしては、実験室レベルではダイバーシティがプラスになるとわかっています。例えば3~4人のグループでいろいろなタスクに取り組む心理学実験では、高いパフォーマンスを出したグループは、優秀なエースのいるグループではなく、女性が多いグループや人種的な多様性があるグループでした。

実際に大企業でうまくいっているかは、まだ確固たるエビデンスは得られていませんが、メカニズムについては少しずつ理解が深まっています。組織内にコンフリクトが生まれるので、それを減らすことで生産性が上がるのではないかと考えられています。単に数合わせで女性をいれて物事が解決するわけではありません。

白河

私はどちらかというと、多様性がないことで失われたものが多いのではないか、という見方をしてほしいと思っています。例えば、女性の声を認識しない音声ソフトを作ってしまうなどで、これは実際にあったことです。

また、私がいちばん問題だと思うは、今の日本の意思決定層における同質性のリスクです。これは、不祥事を起こす組織の特徴でもあります。同質性の高い集団では集団浅慮(=個人の総和よりレベルの低い意思決定をしてしまうこと)が起こりやすいと言われていて、よく例に挙がるのが、日本軍における失敗です。そのような集団では、集団の実力を課題評価したり、イエスマンばかりになって不都合な情報をいれなかったりするほか、内部では同調圧力が働き、自分の意見や疑問に自己検閲してしまいます。批判や異議、逸脱も許されません。

なかでもいちばんよくないのは、集団内の規範を重視すること。ハラスメントの現場でも、「これはウチの会社では常識です」などと言いますが、いつのまにか世の中が変わり、世間の非常識になっていることに気づいていません。特に、あまり生活者層の視点を持たない中高年の男性が意思決定層にたくさんいるような会社で、このようなリスクが起きていて、それが日本企業の弱さになっています。

国保

ありがとうございます。私もダイバーシティの重要性にリスク回避の問題があると思っています。例えば昨年は、オリンピック関連でたくさんの炎上案件がありました。もう少し誰かがクリティカルにチェックしていたら、このようなものが世の中に出て来なかっただろう、という案件が増えていると思います。

白河

本当にそう思います。CM炎上なども同じで、あとから中の人に聞くと、まずいと思っていたと言うのです。でも、特に若い人や女性など異なる感性を持っている人は、同質性の高い会議の場ではそう言えないのです。

国保

ダイバーシティが業績にポジティブに働く要因の一つは、ちゃんと意見交換できる職場にあると思います。数合わせだけして意見を言えないのでは、全く何の価値もありません。

山口

解決策は、一つはトップの方が決意を示して、安心してコミュニケーションが取れることを体制として保証すること。もう一つは、物理的なコミュニケーションの機会も大事だと認識しています。

国保

確かに顔を合わせることとトップが大事、いずれもその通りだと思います。あるワークライフバランスの研究では、中間管理職が、部下のワークライフバランスを応援することに影響する変数は、中間管理職の上司が、どれくらいその中間管理職をサポートしているかだ、とありました。評価者である上司が応援してくれるなら、部下のワークライフバランスを応援するという構造です。当然だと思います。だからこそ、トップから下ろしていくことの重要性を感じます。

山口

おっしゃる通りで、端的に表れるのが男性の育休取得率です。男性育休取得率の高い企業は、前提条件として「トップが強い決意を示す」という要素があります。加えてコミュニケーション機会の確保。積水ハウスが代表例ですが、制度化して人事や上司との面談をする仕組みができている会社は、男性育休取得率が上がっています。その副産物として心理的安全性やダイバーシティも高まるのではないかと考えています。

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