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2020/9/24

コラム

「女性社員が管理職になりたがらないんです」の構造的な課題と解決策 Vol.3

組織としてどうすべきか

ワークシフト研究所
代表取締役社長 小早川

女性が管理職に対して再度意欲を高めるようにするには、当事者である女性に対し、直接的に成長の機会やバイアスを取り除くための思考訓練の場を与えることが重要である。加えて、上司や同僚の意識改革が非常に重要になる。

報告書の結果から、以下の4つの項目が女性の管理職志向に大きく影響していることが読み取れる。

  • 上司の育成熱意
  • 職場からの期待がみえるかどうか
  • 仕事の将来性 :将来のキャリアに繋がる仕事から外さない 
  • 自分からアイディアを企画・提案させる

4つの項目を実現するためのコツ

上司のハラスメントリテラシーを高める
マイノリティである女性がキャリアを構築し男性が圧倒的多数を占める管理職を志望するためにはマジョリティ側からの支援は必須である。もちろん、どんなに育成スキルが高い人でもセクシャル・ハラスメント含むハラスメントは絶対に行ってはいけないし、疑われるような言動も控えるべきだ。

部下への育成を頑張るあまり、圧力をかけすぎて上司がパワーハラスメントの加害者と誤解を受けることは実は少なくない。上司自信のキャリアを守るためにも、部下を育成するためにはハラスメントリテラシーが重要になる。

組織の対応(バイアス研修・意識改革と制度への落とし込み)も重要
セクシャル・ハラスメントには統計的差別、ステレオタイプ的な発言も含まれる。ステレオタイプ的な捉え方や発言は意図しない差別となり、訴訟となる可能性もある。訴訟や裁判になった場合、企業側は大きな代償を支払うことになる。現在は訴訟でなくてもSNSにより情報が外部に漏れ、企業イメージが毀損されることもある。女性社員の育成のためだけでなく管理職自身のキャリア、会社の発展のためにもジェンダーバイアスへの対応は早急に全社で行う必要がある。
意識とともに、制度や評価も見直すとよい。出産・育児休業をしても昇進チャンスがあるかどうか、そしてそれが社員に伝わっているだろうか、ぜひ見直して欲しい。
職場の期待は制度や評価に現れる。とくに大きな組織ではTOPの意向は言葉では伝わりにくいため、制度や評価方法で示すことが重要である。
ライフプランに合わせた中長期的なキャリアビジョンが描けるような制度・評価方法を周知する、性別に関わらず評価され管理職に登用する、などが社員のやる気を引き出すのである。ジェンダーバイアスに関しては、先に述べたとおり女性自身が持つジェンダーバイアスに対処することも重要になる。女性本人に、両立、家事、育児は女性の仕事、性別的役割分業の意識が強すぎると企業の対策は返って逆効果となり、「ぶらさがり」社員を生む可能性に繋がる。「ぶらさがり」社員は一度生まれると再生産しやすいため、出さない措置が重要となる。 組織内のジェンダーバイアスはジャブとなって、女性社員を徐々に「自分は期待されていない」状態に貶めることになる。

上司一人がバイアスに対処していても組織がそうでなければ効果は薄くなる。組織全体、女性社員に対してもハラスメントリテラシーを高める対策が必要である。

■将来のキャリアを考え、あえてチャレンジさせる
女性の管理職に対する意欲を低下させないために、また、一度低下した意欲を再度向上させるためには、挑戦的なポジションや仕事の割り振りを前例に従わず、女性社員に任せる、育児休業から復職した社員に対してもリーダーになることを期待した仕事分担や日常的な声がけは効果的である。

もしかしたら両立に悩んでいる女性社員から断られるかもしれないが打診してみてほしい。女性がリーダー職を断るほとんどの理由が「不安、自信がない」であるが、彼女達の仕事を評価している故の措置であることを伝えることで引き受ける確率はグッと上がる。間違っても「女性をリーダーにしないといけないから」という言葉、あなたの仕事が評価されているのではなく女性故の特別措置なのだ、という意味合いの言葉は使ってはいけない。実力のある女性であるほど断ってくる可能性がある。彼女達にも面子があるのだ。

■失敗体験をさせよ
自分で企画を作らせ自ら提案することを推奨し、背中を押すことは効果的である。これは女性社員に提案スキルを高める、自信を与える(不安をなくす)ためにも重要であるが、自ら提案する際に体験する小さな失敗体験が最も重要であると私は感じている。多くの優秀な女性は、子供の頃から優等生が多い。親や先生の指示をちゃんと聞き実践し褒められて来た経験を持つものが非常に多い。

彼女達の特徴は「最良の受け身型」であることだ。あまり文句も言わず、指示をされたことを粛々と完成させる。時にはやりすぎなくらい完璧にやり遂げる人もいる。このような人達は自分が何をやりたいかを考えたり、自分から仕事を提案して行くことに慣れていない。しかし管理職の仕事は自ら考えて組織の生産性を高める仕事を見つける、改良する、造って行く作業である。自分で最良の案を提示しても必ず反対意見を表明する人もいる。リーダーとは毎日小さな失敗と対峙しながら成長し続ける人である。しかし、失敗経験のなさは失敗に対する恐怖心を増幅させレジリエンス(失敗からの回復力)を下げる。

管理職になって小さな失敗を経験しない人はいない。その経験を学びの糧として翌日から気持ちを切り替え、自ら意欲を回復させる柔軟性も重要になる。ただし、管理職になってから初めて失敗をするのでは、失敗を恐れて何もしない管理職になる。

管理職、リーダーの仕事は失敗の連続であり、そのためにはしてはいけない失敗とは何か、挽回の効く成長の糧になる失敗は何か、を体得することも重要である。よって、リーダーになる前から、自ら提案をさせ、行動させ、小さな失敗を多く経験させることが重要である。

本人の声を聞いてみると意外な事実が見えてくる

弊社の女性管理職育成プログラムを受講する参加者には育休中の女性が多い。高額なリーダープログラムに自費で参加する人も多いが、多くは会社や上司に言わずに参加している。理由を聞くと「本当はリーダーを目指したいが([ST-1] 女性は)会社に期待されていないように感じるし、気恥ずかしくて言えない」という答えが圧倒的に多い。

これはマイノリティ故の反応で、悪目立ちしたり、変に注目されたり同僚の女性から嫉妬されるのを恐れているからである。そこで講師は「やる気があるのを見て評価を下げる上司はいませんよ。是非、その意欲を上司に示してください」とアドバイスするのである。

また、キャリア・コーチングを行なうと、女性本人のキャリアアップ志向を上司が理解していないケースが多々ある。キャリアアップや管理職を望んでいない女性に対しても、理由を聞くと単に自信がないだけ、というケースが非常に多い。私が知っている限り、元々能力の高い女性は、表面はそう見えなくても、話をよく聞くと管理職やリーダーに対する意欲や興味があることがほとんどだ。ただ、構造上の問題によって自信を失くしているだけである。

是非、女性社員を育成する管理職の方、人事の方には女性社員の意見に耳を傾けて欲しいと思う。「管理職になりたくない」の中に隠れた本音がそこにはあるはずだ。その本音を引き出すことで組織の課題も見えてくるのではないかと思う。

不安を取り除くことが鍵を握っている

管理職に対する意欲向上には管理職に対する不安を取り除くことが重要である。管理職の仕事はどんなもので、どのような準備やスキルがあれば良いか知ることだけで不安は減る。また、管理職になるために自分には何が不足しているか、管理職となった場合自分は何に気をつければ良いか、を女性本人が理解することも不安の払拭には大いに助けになる。管理職が具体的な仕事内容やキャリアにとってプラスであることに気づき、自分のキャリアや成長との道筋の見通しが立つことで、管理職に対する意欲は再び上昇する。

弊社の「女性管理職育成プログラム」(※執筆当時の呼称。現プチMBAマスタープログラム)の受講生は管理職(いわゆるバリキャリ)になるつもりで受講しているわけではなく、仕事は好きで続けたいが、どう成果を出したら良いのか悩み、それを乗り越える思考法を学べる場を求めて参加する方が多い。[ST-1] 育児休業から復職するにあたってどう両立し、残業をせず限られた時間の中で評価される仕事がどうしたらできるのか不安で参加する人や、元々リーダー志向が高かったが育児休業に入る時点でリーダーや管理職に対する意欲が低下してしまった人が非常に多い。中には以前はリーダー職をしていたが出産を機に諦めるしかない、という考える女性もいる。

元々優秀で評価が高かった女性ほど、周囲の期待の低さや出産による環境変化に呑み込まれ管理職を諦める傾向にある。それは会社にとっても日本社会にとっても大きな損失である。

そのような優秀な女性たちが自分自身を苦しめている性別的役割分担の思い込みやバイアスを認識し、合理的な思考へ改善するクリティカル・シンキングを獲得し、女性のキャリアやリーダーシップに焦点を当てたクラスに参加することで 87%の参加者が「管理職に対する興味、意欲が向上」し、レジリエンスも高まることが分かっている[1]

また、弊社のプログラムでは、ディスカッションを行うため副次的効果として、異業種でも同じ立場の女性たちと交流することで、情報交換したり、励まし合ったりと、エンパワメントしあう。自分の組織のいい面も発見し、組織への貢献意欲が増す、管理職になって能力を活かしたいと意識が変化する現象がみられるのである。

女性の管理職に対する意欲は彼女たちの課題に焦点を当てた対策を行えば必ず改善できるのである。

最後に報告書から最近の傾向として顕著な例を1つご紹介する。

「リーダーには男性の方が向いている」を否定する傾向が男女共高くなっている、という点である。

否定している割合は女性が83.4%、男性が79.8%であり、全体で8割以上が否定している結果となっている。また、5年前の調査と比較しても男女とも否定する割合が増えていることがわかる。

昨今の複雑化した多様化社会におけるリーダーに求められる能力や役割の変換、社会の意識の変換が顕在化した結果と言えるであろう。社会の変化に対して、組織もリーダー像も個人も意識をアップデートする必要に迫られている、と言える。


[1] 株式会社ワークシフト研究所 2017年 育休復帰後半年以上経過した復職者 調査


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