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2020/8/17

コラム

「女性社員が管理職になりたがらないんです」の構造的な課題と解決策 Vol.1

ワークシフト研究所
代表取締役社長 小早川

ここ数年、多くの企業で女性管理職を育成する必要に迫られ、弊社にも「女性管理職」に関するご相談・依頼を受けることが増えている。内容は、女性管理職として必要なスキル、能力開発に関することもあれば、あと半年で管理職5名増やさないといけないです、という切羽詰まったもの、または女性社員向けだけでなくその上司・管理職に対する部下育成など内容も多岐に渡る。

組織は常に成長し続けなくてはならない。生物の進化と同様、環境の変化に柔軟に対応しないと組織は生き残れない。
「これまでと同質のメンバー」「これまでと同じように」やっていて生き残れるような時代ではないのは誰しも頭ではわかっている。釈迦に説法で恐縮だが、企業の成長にはイノベーションが必要であり、イノベーションには組織の多様化が急務である。中途半端な多様化組織は意味がなく、多様化組織の利点をイノベーションに繋げるほどのインパクトを起こすには、これまでと同質のメンバーではない、つまりマイノリティが意思決定層に入り、マイノリティの意見が反映される仕組みとしなくてはならない。このような経営戦略的な視点からも女性の管理職登用は急務な課題である。

ご相談を受ける中で、多くの人事部の方が口を揃えて仰る言葉に「女性が管理職になりたがらないんです」というものがある。私は毎回聞くたびに違和感を覚えている。

「管理職になりたがらない」件は、最近の20代にも増加している現象であるという人も多い。若手社員の育成については「最近の若い世代は甘やかされている」「リーダーを体験することで理解するはず、だからまずはリーダーにするつもり」など叱咤激励をしながら若手社員をリーダーにしようとする企業は多い。

しかしながら、この対象が女性となると何故か話が変わってしまう。女性が管理職になりたがらない、だから管理職ポジションを打診しない、よって管理職が増えない、という展開になる。何故か若手社員のケースと同じように上司が説得したり、対話したり叱咤激励する様子が見て取れないことが多い。

確認も含め、なぜ御社の女性社員は管理職になりたがらないのですか?と質問すると、大抵「うーん、どうしてでしょうね、働きやすい会社だと思うんですけどね」という返事で終わることが多い。または「リーダー教育しても辞めてしまう女性が多い」と嘆く人もいる。

女性社員が管理職になりたくない理由、リーダー教育をした女性が辞めてしまう理由について、しっかり女性社員と対話し、彼女達の本音を聞き出し、真の課題を見つけ対策している企業は少ないと感じている。

弊社では子供を持ちながらもキャリアを諦めたくない、職場でもチャレンジして成長し続けたい女性が集まるコミュニティを運営しており、2,000名以上が在籍している。皆個人で高額なプログラムを受講する意欲高い女性達である。主に最終学歴が旧帝大を含む国立大学、有名私大卒が多く、学士が74%、修士以上(複数の修士保持者や博士含む)が25%と、優秀で将来管理職やリーダーを嘱望された女性達の声が集まっている場と言える。

先日「独立行政法人 国立女性教育会館 」から「令和元年度 男女の初期キャリア形成と 活躍推進に関する調査 (第五回調査) 報告書 」(以下「報告書」)が出された。この資料は2015年に民間企業に新入社員として入社した男女のキャリアの5年の意識変化を追跡した報告書である。今回は当該報告書、および弊社がこれまで行った調査、その他民間企業からのデータなどから「女性が管理職になりたがらない」構造的な課題を整理し、有効な解決策をまとめる。

女性社員の管理職志望は最初から低いのか

報告書によると入社時に管理職を希望する女性は約60%、男性は97%いることが示されており、男性と比較すると少ないとはいえ、絶対数が少ないとは言えない状況である。

管理職になりたい、と思っていた女性社員はその後どうなるか

報告書によると、入社時に管理職を希望していた女性の割合が勤務年数を重ねる毎に低くなっているのがわかる。1年目には60%あった管理職に対する志望が2年目には46.4% となり5年目には37.6%となっている。男性の場合、2年目以降微減はするものの5年目でも87.9%を維持している。男性の減少率が10%弱であるのに対して女性のそれは40%近い。

特に女性の場合、1年目から2年目の管理職志望の減少率が顕著であり男性のそれの3倍に登っている。

これらの調査結果から、女性は最初から管理職に対する意欲が低い、のではなく、勤務年数を重ね、職場からなんらかの影響を受けることで、意欲が下がっていく、ということが理解できる。

なぜ時間の経過とともに意欲が下がって行くのか、何が管理職に対する意欲減退を生む要因なのか、女性社員の心理変化に働きかける要因について考えてみる。

なぜ管理職志向が年毎に下がるのか

報告書によると、管理職志向のない女性の理由(複数回答)として以下が挙げられる。

「仕事と家庭の両立が困難になる」(69.3%)

「責任が重くなる」(48.9%)

「自分には能力がない」(40.01%)

「仕事の量が増えるから」(33.6%)

「周りに同性の管理職がいないから」(18.2%)

男性との違いが顕著であるのは、仕事と家庭の両立が困難になること、自分には能力がないこと、そして同性の管理職がいない、ことである。因みに仕事の量が増えること、責任が重くなることにより管理職を志望しない、と答えたのは女性より男性の方が多い。

割合を見ても、女性は仕事と家庭の両立の困難さが管理職への意欲を下げている最大要因であることがわかる。別の民間企業の調査[1]では、「風土と制度が整っていれば」という条件付きであれば、出産後に管理職を目指す女性が79.6%いる、という結果となっており、出産経験者も仕事と家庭の両立できることと管理職の意欲が相関することを示している。報告書の対象は入社5年目の社員である。日本の平均から考えると結婚していない女性の方が多いであろう。にもかかわらず、両立の実現が管理職志向に大きな影響を与えていることがわかる。これは実際に同じ組織に両立しながら管理職として働いている女性が少ない現実に影響を受けていると思われる。

多くの女性は、自分が子供を産んでもキャリアを築き続けることができるか、を慎重に吟味している。もし育児休業から復帰した女性が優秀であっても残業できないために昇進が遅れたり、マミートラックにはまった先輩をみること、自分が出産した場合もキャリアアップを望めないだろう、と意欲を低下させて行く。元々優秀で活躍していた女性が出産を機に活躍していない(またはできていない)状況をみて、例え組織が女性にリーダーや管理職などを期待しても辞めてしまう場合も多くある。

次に顕著な要因として、能力の欠如、があるが、この質問では実際の能力の高さ、より女性自身が「自分は能力がないと認識している」点がポイントである。つまり、ここでは実際のスキルや能力の欠如より「自信」の欠如が問題であることがわかる。

この点に関して、2017年の報告書の一部を以下に引用する。

「(中略)男性は学生気分が抜けていないように見えた。ところが仕事を始めると男性の方が仕事を任されるようになり、徐々に逆転していく。女性はお茶出しや消耗品の買い出しなど、男性社員はほとんどやらない業務をやらされた。男性はどんどん自信をつけていき、女性は『自分は仕事ができない』という錯覚に陥るように思った」と打ち明ける。」


[1] 一般財団法人1more Baby応援団「夫婦の出産意識調査 2015」働くママ361人へのアンケート

「女性社員が管理職になりたがらないんです」の構造的な課題と解決策 Vol.2, 3につづく

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