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2019/10/29

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男性育休が組織を強くする(前編)

ワークシフト研究所
代表取締役社長 小早川優子

2010年以降、多くの日本企業が直面してきた組織課題は「ダイバーシティ」「女性活躍」であり、その流れは、長時間労働の脱却を目指した「働き方改革」へと拡大してきました。
企業では、新たな制度を導入し、多くの労力を費やし様々な施策を行ってきたでしょう。しかしながら、ご担当者の多くは「変化は思うように進んでいない」という実感があるのではないでしょうか。

それもそのはずで、これまでの打開策は、当事者である「組織のマイノリティ」を対象に彼ら彼女らをどう意識変革するか、という視点で解決策が練られていました。なぜなら、組織のマジョリティである男性中間管理職は、そのまま現状維持であったからです。
ですが、組織のマイノリティの立場にある当事者の意識変革や働き方の改善をもって組織全体を改善することは難しいのです。マジョリティである男性中間管理職及びその候補者たちの「意識」「働き方」にメスを入れずして、組織全体の変革は不可能だと断言できます。

弊社で9月20日に開催しました「どうする?男性育休 男性の育休を会社のメリットにするために何をすべきか」オープンセミナーに多くの企業の人事部、ご担当者の方にお越しいただきました。お越しいただいた皆様、まことにありがとうございました。

ここ数日、立て続けに日本経済新聞に「男性育休」に関する記事が載っており、「男性の育児休業」に対する社会の流れを感じます。  

【参考】
日本経済新聞 10月27日 
<ダイバーシティ> 育休取れない男性 「言い出せる雰囲気でない」半数
 内閣府調査 子どもがいない男性「取りたい」6割超   https://r.nikkei.com/article/DGXMZO51388830V21C19A0000000?s=3

日本経済新聞 10月28日
 <経済> 男性国家公務員、育休を原則に 1カ月以上促すhttps://r.nikkei.com/article/DGXMZO51484240Y9A021C1MM8000?unlock=1&s=3


組織全体の意識変革は、意思決定者(主に中間管理職、またはマジョリティに属する社員)の意識変革が肝であることを理解している企業やご担当者もいるでしょう。管理職に対して「ダイバーシティ」への理解促進、「働き方改革」の実行を促進していることと推測します。また、経営者、人事部が事あるごとに「多様性が大事です」「早く帰りましょう」と叫んでいることでしょう。それでも、ダイバーシティへの理解はなかなか進まず、残業をする(したがる)人もなかなか減りません。

社員も頭では理解しているはずです。しかしながら、頭で理解したところで実行に移すことができない、教えられていないこと、経験していないことを自ら実行するのに大きな心理的ハードルがあるかもしれません。

育児休業から復帰した女性に対する物理的、心理的サポートは過去5年間で大きく改善しました。成果として、育児休業から復職後、残業せずに生産性を高め働く女性が増えてきました。彼女たちの場合、残業したくなくて早く帰宅するのではありません。早く保育園に迎えに行かないといけない、つまり、「残業できない」から残業しないのです。時間内に仕事を終えないといけないプレッシャーは精神的な負荷が高いので、本音をいえば、逆に残業したいくらい、残業できた方が精神的に「楽」と言える場合もあります。

しかし、赤ちゃんを育てながら働く人は、絶対に残業できない環境に適応しないといけません。このように、物理的な無理やりの「両立生活」を強いることで、時間をかけて限られた時間の中で能力を発揮するためのスキルや知恵をつけていき、残業をしない働き方を実現していくことができるようになります。

これは女性だけの話ではなく、人間は皆同じと言えるでしょう。ダイエットしなくてはいけないことを頭ではわかっていてもできない、のと同じです。実現させるには、食事を切り替える、お酒を飲まない、など、物理的に食べない環境を作るしか方法はありません。手に届く場所にケーキや揚げ物やお酒があれば誰でも「明日から」「ちょっとだけ」となり、永遠にダイエットはできません。

組織の意思決定者の多くを占める男性の働き方を変えるためには、同様に「働き方改革」を唱えるだけでは実現はできません。男性社員こそが、育児休業を通じて仕事ができない期間を経験し、復帰してからもお迎えのために「残業できない環境」を無理矢理作ること、これこそが組織全体の「働き方改革」を一気に前進させる可能性を大いに秘めた策となるはずです。

育休を取った男性社員は、復職後、育休前より残業ができないのは当然です(父親も子供の保育園のお迎えや病気の対応をする必要が出てきます)。子育てとの両立に、時間をかけて残業できない環境変化に適応するスキルを磨くことが組織で許容され、複数の男性社員が率先する形で働き方改革を無理やり実現していく(実現せざるを得ない状況にしていく)ことが、マジョリティに属する他の男性に影響を与え、組織全体の「真の働き方改革」の大きな一歩となり得るのです。また、育休をとっても、残業をしなくても(できない状況でも)、責任あるポジションを全うするこれまでの日本の社会にはなかなか存在しなかったタイプを許容することで、組織における「ダイバーシティ」の実現につながる大きなきっかけになります。

組織のマジョリティに属する25歳―40歳の男性社員が育休を取りながらキャリアをしっかり築いていき、小さな子供のお迎えのために残業しない状態が「特別でない」組織になることで、同じ条件で働く女性も家事育児を言い訳にできなくなるので「ぶら下がり化」も抑制できるでしょう。

また親などを介護しながらキャリアを築く人も増えていくでしょう。

今後、介護とキャリアとの両立は大きな問題となります(すでに潜在的には大きな問題になり始めています)。介護をする層は育児をする層より幅広く、35―60歳の管理職層が大きな影響を受けます。現在40歳以上の管理職の男性の場合、妻が専業主婦かパートタイム就業である割合も多いので、介護の一部を妻が負担する形でどうにか回っているご家庭も多いのではないかと思います。
ですが、これから管理職になる層は、すでに共働き率が専業主婦率を超える層であり、夫婦ともにフルタイム勤務である層も増えてくるはずです。

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後編:男性育休者がダイバーシティとイノベーションの鍵となることについて更に言及します。


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