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2026/1/28

コラム

【研究報告】エビデンスに基づいた女性管理職育成とは ~ワーキングマザー支援の最新研究~ Vol.3

株式会社ワークシフト研究所所長/静岡県立大学経営情報学部准教授 国保祥子

国保 祥子

株式会社ワークシフト研究所所長/静岡県立大学経営情報学部准教授

労働力人口の減少を背景に、多くの企業で女性が活躍できる環境の整備が喫緊の課題となっています。しかし「何をすればいいかわからない」、「施策を打ってはいるが効果が出ない」などと悩んでいる企業や担当者の方も多いでしょう。女性活躍に有効な施策とはどのようなものでしょうか。2025年の米国経営学会(Academy of Management’s)で共同研究者の一人として発表した内容を含む最新のデータや理論、特にワーキングマザー向けの研修の効果を5年間にわたって追跡調査した貴重な研究結果に基づき、女性に特有の育成上の課題や必要な支援、有効な活躍支援プログラムとそのメカニズムなどを解明した国保祥子の研究を3回にわたり紹介します。

【第3回】 5年間の追跡調査で判明した「復職後活躍」のメカニズム

企業における人材育成

企業の人材育成手法は、日々の業務経験、OJT、Off-JTの三つだ。このバリエーションを組み合わせ、「経験」をデザインする。人は「経験」によって成長するため、成長につながる「良質な経験」が必要だ。良質とは適切な難易度があることで、いわゆるルーティンワークでは、人は成長しない。適度な責任や適度な負荷をかけ、実践後によいフィードバックがあり、反復して練習する機会があることが重要だ。そして成長することによって、自己効力感(自信)を身につけていく。

では、どのような能力を伸ばすべきか。研究者のKatzがスキルの類型として、ヒューマンスキル、テクニカルスキル、コンセプチュアル・スキルの三つを挙げている。コンセプチュアル・スキルとは、概念化するスキルのことだ。人を動かし、育てていくうえで重要なスキルで、職階が上がり、人をまとめる立場になると特に必要とされる。

このようなスキルを身につけ、「自分はやればできる」と思えることが自信につながっていく。これを自己効力感と言う。仕事をしたり、昇進をしたりするうえで非常に重要な力で、自己効力感を育成するには言語的な説得、他者やロールモデルの観察、小さな成功体験、あるいは知識やスキルの獲得などが有効だと考えられている。つまり、適度な負荷や適度な責任を引き受け、小さな成功体験を積んでいくことで自己効力感は育っていく。安易に業務の軽減だけをしてしまうと自己効力感が育まれなくなるので、注意が必要だ。

正木郁太郎先生との共同調査の結果からは、多様な仕事の経験が仕事の自己効力感を上げ、昇進意欲につながる媒介関係があることがわかった。自己効力感を育てることは「リーダーになってみたい」という昇進意欲を育てることにつながる。逆に、自己効力感を持たせずにリーダーをさせようとしても難しいだろう。

復職支援プログラムの効果

育児と両立することを前提とした人たちへの施策、具体的にはワーキングマザーに対してどのような施策が有効だろうか。2014年から社会実験として実施している復職支援プログラム「育休プチMBA」をベースにした研究を紹介する。

「育休プチMBA」は育休中に受講することを想定している。この研究では、3年間で19社・138名に上るこのプログラムへの参加者を対象に、受講前と受講後、さらに育休から復職して半年後に意識調査を実施し、どのような効果があるのか、どのようなメカニズムで効果がもたらされているのかを解明することを目指した。

受講前後の変化としては、「復職後の家族と仕事の干渉」への懸念が有意に減少し(4.76→4.51)、「仕事と家庭の両立自己効力感」が有意に高まっている(3.56→3.92)。さらには「管理職としてやっていけそうだという気持ち(=管理職自己効力感)」も優位に増加した(3.41→3.83)。

復職6カ月後の本人と上司を対象にした調査では、両立自己効力感を持って復職した被験者が、実際に活躍していることが明らかになっている。チームのための貢献活動や、周りの人たちを助けるような行動を表す「役割遂行パフォーマンス」に有意な正の効果を持っていた。両立自己効力感が高まった状態で復職したプログラム参加者は、上司からチーム内貢献行動が評価されていることが確認できている。

プログラム参加者と非参加者(37名)の比較調査も行っている。非参加者は、復職が近づくにつれて両立への不安が強まり、両立効力感も低下し、不安が高まった状態で復職していることが確認できた。また、「家族の支援」や「キャリア継続意向」、「両立効力感」や「管理職効力感」がそもそも低い傾向にあった。つまり働く意欲や家族のサポートがないと、このような復職支援プログラムに参加しようという気持ちになりにくく、参加しないことでさらに復職後が大変になっていく傾向が確認されている。

このような現象は、Hobfollが唱えた「資源保存理論」で説明できる。人は個人的な資源(物的資源、個人特性、社会的資源など)を獲得、保持、保護しようとするという理論だ。ロールプレイングゲームで必要なHPやMPをイメージするとわかりやすい。ゲームではHPやMPが少なくなると、攻撃よりもHP・MPを保存することを第一に考える。つまり、不安な状態での復職はHP・MPが低い状態であり、そのためこれ以上減らないように最低限の役割責任しか果たさなくなると推測される。

一方で、このような復職支援プログラムへの参加によって両立効力感が高まった人たちは、HP・MPが豊富な状態で復職するため、攻めに出ることができる。攻めとはチームへの貢献行動などで、これによりさらなるHP・MPを獲得する。つまり、資源が十分あれば、「いかに迷惑にならないようにするか」という資源保護の考えから、「時間内で期待に応えるにはどうすればよいか」という資源獲得のための問題解決思考にシフトすることが推測される。ゆえにHP・MPが高くなるような復職支援策は有効と考えられる。

さらに、参加者の5年後も調査した。5年後に約40人にインタビューをした結果、33人が同じ会社で就業を継続しており、このうち24人が昇格・昇進をしていた。この24人に対して、何が効果があったか、何が影響しているかを尋ねたところ、いちばんは「家庭における周囲からの支援」で、特にパートナーの支援が非常に重要であることが明らかになった。ほかは、在宅勤務などの「勤務条件の柔軟性」や、本人の心理的資源であるキャリア志向やワーク・ライフ・バランス自己効力感も効果があった。

これらの結果を踏まえると、人事的な施策としては、家庭における支援を得やすくなるような支援、勤務条件の柔軟性につながる制度設計や支援のほか、キャリア志向やワーク・ライフ・バランス自己効力感を育てる育成施策も効果がありそうだ。

また、5年後調査で昇進している人たちに、復職後に意識していたことも尋ねた。目を引くのは「家庭における支援を得るための行動」を取っていることだ。具体的には、家族に仕事やキャリアの話をすることで応援してもらえる環境をつくったり、職場で上司に要望を伝えたり、同僚には家庭の状況を共有したりしていた。資源=HP・MPの獲得行動を積極的に行っていることがわかる。HP・MPが高い状態で復職し、復職後にさらに獲得行動をした結果が、昇進や昇格のような活躍につながっていると推測できる。

これらの研究やデータを踏まえ、今後の女性活躍支援に対して以下の提言を行う。

今後の女性活躍支援に関する提言

  1. 両立効力感が復職後の活躍に影響するため、復職支援として両立効力感を高める施策を行う
  2. 育休復帰は100%になりつつある今、女性活躍は、就業継続から復帰後のキャリアアップを目的とした取り組みにシフトする
  3. 復職が当たり前になると、無防備な復職も増える。復職後のつまずきがモチベーション低下につながらないよう、キャリアアップの意識付けや視野を広める施策が復職当事者、上司ともに必要
  4. 仕事にフルコミットできない人材はどんどん増える(時短、介護、病気治療、残業規制等)。働き方の多様性を前提とした組織管理体制に早めにシフトされたい
  5. 男性育休は、業務効率化と職場のジェンダー平等意識醸成の機会ととらえる

◆関連コラム
vol.1エビデンスに基づいた女性管理職育成とは ~ワーキングマザー支援の最新研究
vol.2エビデンスに基づいた女性管理職育成とは ~ワーキングマザー支援の最新研究

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