WorkShiftInstitute

株式会社ワークシフト研究所

〒106-0044 東京都港区東麻布1-7-3
第二渡邊ビル 7階

note
お問い合わせ

お問い合わせ

2026/1/21

コラム

【研究報告】エビデンスに基づいた女性管理職育成とは ~ワーキングマザー支援の最新研究~ Vol.2

株式会社ワークシフト研究所所長/静岡県立大学経営情報学部准教授 国保祥子

国保 祥子

株式会社ワークシフト研究所所長/静岡県立大学経営情報学部准教授

労働力人口の減少を背景に、多くの企業で女性が活躍できる環境の整備が喫緊の課題となっています。しかし「何をすればいいかわからない」、「施策を打ってはいるが効果が出ない」などと悩んでいる企業や担当者の方も多いでしょう。女性活躍に有効な施策とはどのようなものでしょうか。2025年の米国経営学会(Academy of Management’s)で共同研究者の一人として発表した内容を含む最新のデータや理論、特にワーキングマザー向けの研修の効果を5年間にわたって追跡調査した貴重な研究結果に基づき、女性に特有の育成上の課題や必要な支援、有効な活躍支援プログラムとそのメカニズムなどを解明した国保祥子の研究を3回にわたり紹介します。

【第2回】 「両立支援」だけでは逆効果? 必要なのは「活躍支援」へのシフト

ジェンダー・ダイバーシティの価値と課題

ダイバーシティは、少子化が進むなかで有能な人材を集めるための手段だが、一方で、ダイバーシティ(多様性)だけを推進すると、組織の中にコンフリクト(もめごと)が増加するなど逆効果もある。人材の定着を図るにはエクイティ(公平性)とインクルージョン(包括性)も同時に推進し、魅力的な職場環境をつくる必要がある。

ダイバーシティには、性別や国籍などの目に見える表層のダイバーシティと、価値観などの目に見えない深層のダイバーシティがある。下の図は、ある職場のチームをダイバーシティの観点で可視化したものだ。ジェンダーや国籍といった表層のダイバーシティは、深層のダイバーシティも内包していることが分かる。このチームには様々な経験やスキル、知識を持つ人材が集まっているが、企業や組織にとって価値の源泉となるのは、このようなダイバーシティだ。

ダイバーシティ(多様性)のプラス効果

  • 組織の中に多様な視点や経験、知識を持つメンバーがいることで、新しいアイデアが生まれやすく、新しい市場や顧客層にアプローチすることができる
  • 異なる文化的背景や価値観を持ったメンバーがいることで、これまで当たり前だと思われていた習慣や価値観が問い直され、革新的な問題解決方法が生まれる
  • さらに多様な働き方や価値観が尊重される組織では、メンバーのエンゲージメントが高まりやすく、従業員満足度やメンタル疾患、離職率の改善が見込まれる

企業が知識や経験のダイバーシティを組織の中に取り込み、経営力、競争力につなげていくには、多様な人材を受け入れる必要がある。同時に、表層のダイバーシティと価値観などの深層のダイバーシティ、それぞれの違いがもたらすコンフリクトやデメリットを最小化していく職場のマネジメントが重要だ。多様性をうまく融合するマネジメントとして、例えば帰属感と自分らしさを両立させるインクルージョン風土を実現することで、コンフリクトを軽減することができる。

女性のキャリアアップ支援

日本では、ダイバーシティの中でもジェンダー・ダイバーシティが最も大きな課題となっている。特に子どもを持って働き続ける女性=ワーキングマザーにどのような支援をしていくかが解決策の中心となってくる。というのも、女性の育成上の課題には出産や育児期をどのように過ごすかという観点が欠かせないからだ。

女性は結婚や出産といったライフイベントによって就労環境が大きく変わり、その変化がキャリア意識に影響する。変化への適応に失敗すると就労意欲や昇進意欲が下がり、そのまま離職に至ることもある。そのため、実際に出産するかどうかはさておき、出産しても大丈夫だと思える環境をつくることが重要だ。特に出産前のキャリア初期における被育成経験が極めて重要で、その時期に適切な育成を行えば、おそらくライフイベントの変化を経ても活躍できるだろう。キャリア初期にどのような経験をさせるかということを意識して、女性を育成されたい。

加えて適切な介入も重要だ。先述の通り、女性の収入が少ない日本の社会では、男性が世帯収入を確保するために長時間働いているため、成長の機会や昇進の機会が男性に集中している。その結果、女性は成長や昇進の機会が制限されやすい。これは構造的な問題であるため、これに対して企業として介入し、女性を育成する必要がある。

具体的には両立支援と活躍支援の二つの支援が必要だ。両立支援は、時短勤務制度や在宅勤務制度のような両立しながら働きやすくするための支援だ。活躍支援は、適度な負荷の業務や適切な責任を与えることのほか、業務を遂行しやすくするための柔軟な勤務環境の整備、能力開発の支援などだ。

現状は、多くの企業で両立支援は進んでいるものの、活躍支援は不足している。業務軽減施策が中心になると、ワーキングマザーにとっては成長機会が乏しくやりがいに欠け、「組織へのぶら下がり」も発生する。一方で、当事者以外の職場のメンバーにとっては不公平感が募っていく。目指すべきは、どちらの支援も充実している状態だ。育児のような制約があってもなくても責任を背負い、昇進機会もある職場を目指したい。これは、子育て中の女性に限らず、すべての社員が働きやすい職場であるとも言える。

HAKIMによる女性のキャリア選択の研究によると、女性は、何があっても就業し続けて昇進を目指す仕事志向型が2割、何があっても家庭に入りたい家庭志向型が2割で、それ以外の6割は、環境や状況に応じてキャリアを選択する適応型だ。この6割の適応型を対象に人事施策を考えていくことが重要だ。

もし様々な両立支援策を打っているにもかかわらず狙った効果が出ず、モチベーションを失っていく社員が多い場合は、活躍支援が不足していることを疑うべきだろう。今の日本企業の多くは両立支援を充実させている。しかし、活躍できる環境、仕事のやりがいや充実などをもう少し考えるべきではないだろうか。活躍支援の代表的な例がキャリアアップ支援だ。子どもを持ってもキャリアアップできる環境を整えることが、多くの適応型の社員を仕事に向かわせることにつながるだろう。


◆関連コラム
エビデンスに基づいた女性管理職育成とは ~ワーキングマザー支援の最新研究~Vol.3につづく。vol.1はこちら。

国保の研究報告 ▶︎ 動画視聴はこちら
ニュース一覧