2019/5/10
コラム
【コラム】なぜ女性は、入社後に昇進意欲を失うのか?
ワークシフト所長コラム2019年5月
2020年卒の就職活動が本格化していますが、今年の大卒の求人倍率は高く、優秀な人材の獲得競争は年々激しくなっています。なんとか獲得した貴重な若手社員には入社後に活躍をしてもらいたいところですが、若手社員のモチベーションという観点で面白い調査結果があります。
入社直後と現在の昇進意欲を尋ねた調査[i]によると、「新入社員の頃に昇進意欲がある」と回答した人には大きな男女差がないのですが、「そのうち現在も昇進意欲を持ち続けている」と回答した人の割合は、男性が82.2%、女性は55.9%と大きな男女差が存在します。
つまり女性は、入社直後は昇進意欲がある人でも、約半数が入社した後に昇進意欲を失っているのです。
なぜ女性の昇進意欲だけが顕著に下がるのでしょうか?
昇進を希望する理由の男女差を見てみると、男性が賃金アップ、ロールモデル、ステータス、家族からの期待といった外的報酬に言及しているのに対し、女性はやりがいといった内的報酬、能力、貢献度に言及していることが分かります。
また、昇進を「希望しない」理由の男女差を見てみると、男性がメリットのなさに言及しているのに対し、女性は(雇用管理区分の問題を除くと)家庭との両立困難や、ロールモデル不在など仕事と直結しない理由を挙げています。
なお、責任が重くなることが理由で昇進を拒む人の割合は、男女でほとんど差が見られません。
女性管理職比率がわずか1割であるわが国においては、女性にとって昇進は「皆が経験するもの」という感覚ではありません。そのため地位や報酬といった外発的動機付けよりも、やりがいのような内発的動機付けが昇進意欲を左右するようです。
つまり日々の仕事でやりがいを感じている女性が、結果として昇進意欲を持つというわけです。
なお、やりがいを感じるためには、挑戦的な業務を通じて成長を実感することが必要です。
しかし、「統計的に女性より男性のほうが活躍する」という無意識バイアスを上司が持っていると、成長に繋がる業務経験を男性部下に優先的に与えようとします。
こうした過去の統計から労働者の業績と属性の関係を判断し、特定の属性を持つ労働者を厚遇する行為を統計的差別と呼びますが、上司にこうしたバイアスがある場合、女性部下は成長する機会を逃し、やりがいを感じにくくなります。
そしてやりがいを感じないため昇進意欲を持たない女性の割合が増え、それが先の「統計的に女性より男性のほうが活躍する」という事実をさらに強化していきます。
もし「うちの女性社員は昇進意欲が低い」と感じているようであれば、まずは彼女たちがやりがいを感じられる職場になっているか?を確認することをお勧めします。
女性の意欲を向上するために必要なもうひとつの要素「働きやすさ」については、次回解説します。
[i] 中央大学大学院戦略経営研究科 ワーク・ライフ・バランス&多様性推進・研究プロジェクト「社員のキャリア形成の現状と課題~社員のキャリア形成の現状と課題に関する調査報告書~」(2016年)