2026/1/14
コラム
【研究報告】エビデンスに基づいた女性管理職育成とは ~ワーキングマザー支援の最新研究~ Vol.1

国保 祥子
株式会社ワークシフト研究所所長/静岡県立大学経営情報学部准教授
【第1回】 なぜ女性管理職が増えないのか? データで見る構造的な課題
ポイント
- 将来の労働力減少を見据え、女性が活躍できる環境の整備は喫緊の課題である。
- 女性が活躍するには、育児と両立しながら仕事ができる職場づくりが重要。ただし、就業継続だけを目指すのではなく、キャリアアップを視野に入れた支援が必要。
- 特にワーキングマザーのキャリアアップを支援するには、制度的支援だけではなく、心理的資源という観点での支援が有効。
はじめに
経営戦略としての女性リーダー育成、そのために必要な環境整備
日本の生産年齢人口は、2050年には1995年の2/3の水準になると推計されている。すでに多くの企業や経営の現場で、人が足りないという感覚を持っているだろう。この傾向が強まっていくと予想されるなかでどうすればいいだろうか。日本の男性はすでに十分働いている。生産時間の国際比較を見ると、日本男性の有償労働時間は突出して多く、さらに働かせることは現実的ではない。企業にとって、女性が活躍できるようになるための環境整備は喫緊の課題と言える。
一方、ここまで日本の男性が働く背景には男女の賃金格差がある。家計が男性に依存し、男性が働かざるを得なくなっていることはデータから明らかだ(民間給与実態統計調査)。男女の賃金格差の最大の理由は役職手当だと考えられる。つまり、女性が管理職になっていない・女性がキャリアアップしていないために、賃金が低い状態に留め置かれている。

女性が管理職にならず、賃金が上がらない現象は「チャイルドペナルティ」という。「子どもを持つことでペナルティを受ける」という意味だが、具体的には、東京大学の山口慎太郎教授らの研究1により、第一子誕生によって女性の賃金が10年間で46%下落する一方、男性は8%上昇することが確認されている。男女間賃金格差は出産直後に拡大し、長期間経っても埋まらない。女性は子育て期の労働時間減少により、その後の昇進機会が失われることで賃金格差が大きくなっていくことが確認されている。
21世紀職業財団の調査2でも、難易度や責任の度合いが低くキャリアの展望がない「マミートラック」に該当する女性が、本来は管理職を目指せる総合職に約40%もいることがわかっている。第一子の出産後に時短勤務を選択することで、本人が意図せずマミートラックの入口に入ってしまった「時短トラップ」と呼ばれる現象もある。このように子どもを持つことが、キャリアアップにおいてつまずくきっかけになっていることは、一つの現象として認識しておく必要がある。
このような世代の背中を見ている若い世代が、両立しながら働くことに対して希望を持てなくなっていることも大きな問題だ。18~34歳の未婚男女に聞いた理想ライフコースと予想ライフコースを見ると、若い世代は男性も女性も両立しながら働くことを「理想」と考えている人が多い。しかし、女性の「予想」の最多は非婚就業コースだ。若い人たち、特に女性はキャリアと育児を両立したいが無理だと感じており、結婚や出産、家庭というものを手放さなければ、キャリアを追求できないと考えているのだ。

このように、今の日本の職場では若い人たちが希望を失う状態になっているが、逆に両立できる職場環境を実現できれば若い人たちが集まってくるとも考えられる。女性のリーダー育成環境をつくること、そのためにダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(包括性)の環境を整えることは、企業にとって非常に重要な経営戦略であると言えるだろう。
1 東京大学大学院経済学研究科の山口慎太郎教授、ウプサラ大学経済学部の奥山陽子助教授、大阪大学社会経済研究所の室岡健志栄誉教授による研究
2 21世紀職業財団の「子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究」(2022年)
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