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2020/8/11

コラム

【コラム】コロナ禍にこそ考える真のグローバル教育とは

ワークシフト研究所
研究員 堀井香奈子

ワークシフト研究所研究員の堀井香奈子です。
初めてコラムを書きます。私はコンサルティング企業に勤務しながら、
この春お茶の水女子大学の博士課程(ジェンダー学際専攻)を卒業しました。

博士課程では、家族社会学の研究室に所属して、ハローキティやポケモンなどのキャラクターが母子関係に与える影響について研究しました。自然科学分野から社会科学分野へ研究領域をシフトしたこと、企業で働きながら博士課程へ進学したことなど、多くの方には稀有な経歴として映るかもしれません。これまでの研究活動で得た知見や、キャリア構築において経験したことなどを共有することで、みなさまのお役に立たらと考えております。
どうぞよろしくお願いします。

さて、Covid-19の感染拡大により、勤務環境や子育て環境に大きな変化が生じ、皆様もご不安を抱えながら変化への対応に追われていることと思います。国政や都政、そして各国のリーダーの意思決定に注目してニュースをご覧になっている方も大勢いらっしゃることでしょう。

私も大学院を卒業したら思い切り海外旅行へ行きたいと願っていたものの、それも叶うのはしばし先のことになってしまいました。仕事では様々な国のメンバーとチームを組成しており、互いの安否を確認しあいながらリモートで働いています。ニューヨークにいるメンバーが、お子さんの学校の先生から投げかけられた言葉を共有してくれました。それは、「たった一人だったはずの最初の患者から、こんなにも各国の何百万人、何千万人という人に広がっていくなんて信じられるでしょうか」というものです。国境を越えた人や物の移動が想像を超えるほどさかんに行われていたことを改めて痛感しました。皆様も仕事・留学・旅行など、様々な海外経験の機会が奪われてしまった今、強烈に世界のつながりを意識しているかもしれません。

私自身も国際的に活躍したい、子どもにも国境を越えたコラボレーションの機会がいつかあるようにと願ってきましたが、海外旅行さえ行けない今、不安を覚えます。そして、こうした不安ゆえに、自分の歩みを止めてしまわないか、将来子どもの挑戦の芽を摘んでしまわないかという葛藤も感じます。そんなとき、とても素敵な考え方に出会いました。それは「日本にいてもグローバル教育はできる」というものです。
ヤマザキマリさんと小島慶子さんの対談本である『その「グローバル教育」で大丈夫?』の中で、お二人は「半径20メートルにある目の前の社会の中で多様性を発見できなければ、地球の裏側に行っても多様性を発見できないんじゃないか」(p.47)という考えに至っています。
「グローバル」だからといって必ずしも海外へ渡航しなくては学べないわけではなく、多様性を見出す目、つまり感性を養うことが必要だというのです。気乗りしない苦手な相手と話しながら、実はこの人は面白いと苦手意識を乗り越えることができれば、世界が広がったと言えるのではないかとヤマザキマリさんは例を挙げています。自分の一時の感情、一瞬の判断に騙されずに、相手の奥にある背景をくみ取ることができれば、と私もまだまだ道半ばではありますが、日本でできる身近なグローバル教育の修行に取り組んでいます。大勢の人と当たり前のように顔を合わせることができない今だからこそ、顔を合わせられる限られた人や直接会えなくてもともに時間を過ごす人と、オンラインも活用しながら濃密な時間を過ごすのも良いのではないでしょうか。

もちろん語学ができるに越したことはありません。しかし、「英語ができる人=グローバル人材」と位置づけてしまう風潮、さらには「英語ができる人=仕事ができる人」という思い込みは少々危険であると考えます。20年以上日本語で生活しているからといって、新入社員が最初から日本語の契約書を完璧に理解できるわけではありません。同様に、「英語ができる」にも幅広い段階があり、試行錯誤でコミュニケーションして最終的に伝わればよいという場面もあれば、瞬時の正確な判断が求められる交渉などの重大な局面があります。語学の習熟度と仕事の習熟度をきちんと区別して、両面での成長機会を得る必要があると考えます。さもなければ、海外在住経験や留学経験のある人が「英語ができる人=グローバル人材=仕事ができる人」とみなされてしまった結果、通訳のように扱われ、グローバル人材として成長するステップや、仕事の習熟していくステップを経る成長機会を失ってしまうという場面もあるかもしれません。

私は留学経験もなく、英語ができたわけでもありませんが、時間がかかっても試行錯誤して仕事が進めばよいという場面で積極的にチャレンジする機会をいただき、とても幸運だったなと感じています。同じ母国語の人と仕事をすることに比べると、何倍か時間がかかることもあり、仕事の難度は上がりますが、うまくいったときの達成感も大きなものとなります。英語が得意でない方も、ぜひ多様性を見出す目を養い、ここぞというときに勇気を持って踏み出していける環境があるといいなと思います。

大人も子どももこうした多様性に目を向けるサポートになるような書籍がないか探してみました。最近では、『学校では教えてくれない大切なこと』シリーズなど、友達関係、自信の育て方、プレゼンテーション、探求心の育て方といった心の持ちようやソーシャルスキルに関する子ども向け書籍が充実していて、現代の子どもがうらやましくなります。
中でも、『人間図鑑 みんなのちがい』は親しみやすいイラストで、未就学児のうちから楽しめる絵本でありながら、大人でも発見の多い構成になっています。体のちがい、生活のちがい、感じ方のちがいなどが描かれています。例えば、人と人が出会ったときの挨拶でも、握手やお辞儀や名刺交換など、私たちのよく知る挨拶から、マサイ族の垂直ジャンプで行う挨拶やチベットの舌を出し合う挨拶、モンゴルのにおいを嗅ぎ合う挨拶まで紹介されています。どんなことに恐怖を感じるのか、なぜ勉強するのか、どうなったら幸福なのか、様々な国の様々な考え方が描かれていて、自分の価値観の近いものを見つけたり、思ってもいなかった考え方に出会ったり、お子さんからの本質的な質問に答えるときにも参考になるかもしれません。

日本にいながらにしてできる大人と子どものグローバル教育、きっと正しいやり方や方法論があるわけではなく、もしかしたらずっと続く人生修行であり、人間の成長の過程なのかもしれません。なかなか海外に行けず想像をめぐらすことしかできない今、ソーシャルディスタンスを保ちつつ、多様性を見出す目を養う半径20メートルの旅をぜひご一緒に実践してみましょう!


【出典】
『その「グローバル教育」で大丈夫?』( 朝日新聞出版, ヤマザキマリ・小島慶子, 2015年)
『学校では教えてくれない大切なこと 14 自信の育て方』(旺文社, 藤美沖, 2017年)など
『人間図鑑 みんなのちがい』(いろは出版 編・間芝勇輔 イラスト, 2019年)

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