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2020/2/27

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育休中のワーキングマザーに対する復職支援施策は、育児とキャリアの両立促進施策でもある

   ワークシフト研究所 所長コラム 2020年2月

ワークシフト研究所
所長 国保祥子

※先日発表した論文に好評いただいておりますので、ワークシフト研究所のコラムとして発表いたします。

女性管理職を育成する上での課題

我が国の女性管理職はまだまだ少ない。
労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2018」によると、管理職に占める女性の割合は、アメリカ43.8%、スウェーデン39.3%、フランス32.9%、フィリピン48.9%やシンガポール35.2%などと比べても、日本は12.9%という低い水準にとどまっている。女性管理職を育成するためには、まず管理職への昇進可能性のある女性が組織内に存在することが前提条件として必要である。
そのためには、結婚や育児といったライフイベントを経ても仕事が続けられる状況である必要があり、これを「就業継続要因」とする。
しかし、女性が就業を継続するだけでも管理職に至らない。加えて管理職に昇進するための知識・スキルや、意欲を備える必要がある。特に女性の多くは20代後半~40代前半に出産というライフイベントを迎えるため、管理職として必要な知識やスキルを身に着けるための能力開発との両立が難しいが、これを「昇進要因」とする

「就業継続要因」については、近年では育児休業制度(以下育休)が普及したことで、出産しても就業継続はできるようになった。
「平成30年度雇用均等基本調査」によると、2017年度に育児休業を終了して復職予定であった女性のうち89.5%が復職している。いまや育休に加えて復帰後は時短制度と両立支援を連続的に利用することが一般化しているが、制度の充実によって就業を継続する女性が増えた一方で、フルタイム勤務者との業務配分、会議時間等の情報共有の方法、評価方法といった管理上の課題が目立つようになった。
また時短制度利用者本人にとっては、仕事経験が制約されることで能力開発やキャリア形成、仕事意欲に対するマイナス影響があるという課題がある[佐藤・武石,2014]。

一方「昇進要因」については、独立行政法人労働政策研究・研修機構[2014]の調査を見ても昇進意欲の男女差が顕著であり、女性は「役付きでなくともよい」が58.0%と過半数を占める。同調査の「昇進を希望しない理由」を見ると、男性は管理職に昇進すること自体のデメリットを挙げる人が多いのに対し、女性は、「仕事と家庭の両立が困難になる」が39.8%と最も多く、家庭に対するマイナス影響への不安が阻害要因になっていることが分かる。

つまり、女性管理職を育成するためには、就業継続ができる環境に加え、家庭と両立しつつやりがいを持てる業務を任せて昇進意欲を持たせる必要がある。そのため管理職の役割が重要になるが、統計的差別[Aigner and Cain,1977等]やジェンダーバイアス、時間制約のある人材の管理ノウハウ不足等の理由から、女性は構造的に能力開発が行われにくい状態にあることが多いため、解決するためには恣意的な介入が必要である。

育休という女性特有の課題と、解決策としての支援プログラム

特に職場を1年近く離れる育休は、女性のキャリア上大きな影響を持つ。制度によって就業継続はできるようになったものの、約1年間も職場から離れることの影響は小さくない。長い育休は主体性やコミットメントの低さの現れだと解釈される[Hideg, Krstic, Trau and Zarina,2018]だけでなく、育休の前後で大きく変わる働き方や役割の変化にうまく適応できないという課題もある。
育休は、両立に不安を抱いた女性が業務に対する積極性を失い、そのため上司や同僚が女性への期待を下げてやりがいのない業務を任せるようになり、そのため女性は意欲を失っていく、という負のスパイラルの入り口になりやすい。

国保・吉川・Wuの研究チームは、2018年度~2020年度に育休から復職する管理職への昇進可能性がある雇用区分の正社員・総合職の女性総合職を対象に、育休から復職する際の再適応を促進することを目的とした介入施策を実施した。この介入施策は、復職後のRealistic Job Previewを目的としたケースメソッドによる4回のワークショップで構成され、育休期間中に受講するものである。被験者にはプログラム受講前と後、復職直前と半年後というタイミングでアンケートを実施し、意識変化と個人特性の影響を統計的に分析する。研究協力に同意した18社から138名の被験者がプログラムに参加、115名が全4回のプログラムを修了した。

この介入施策がもたらす意識の変化および再適応促進施策としての妥当性に関する定量分析は後日発表予定であるが、本稿では、このうち2018年度に開催したワークショップの参加者70人の会話(ディスカッション)を録音し、タグとカテゴリに分けてその言及頻度を分析した。
ワークショップでは、参加者はケース教材に基づいたディスカッションを講師のファシリテーションの元で行う。言及頻度はケース教材で扱われるシチュエーションに多少の影響を受けるが、複数回を横断的に分析することで、各ワークショップにおける発言の偏りを緩和した。会話の分析に当たっては、大谷[2019]のSCAT(Steps for Coding and Theorization)を使った質的データ分析を参考にしている。その結果、再適応の促進とは別に、管理職として必要な視座の獲得という効果があることを確認した。

タグ 詳細 スキルカテゴリ 主体カテゴリ
育児資源要素 家事育児リソースやタスクに関わる要素 テクニカル 個人
育休者の知識・スキル・意識の課題 個人の知識やスキルに関わる要素 テクニカル 個人
復帰後イメージの不足 復職後の具体的な働き方のイメージに関わる要素 コンセプチュアル 個人
業務関連要素 担当業務の管理に関わる要素 テクニカル 個人
対人関係要素 職場における人間関係に関わる要素 ヒューマン 職場
職場管理要素 職場組織全体の管理・規範に関わる要素 テクニカル 職場
全社戦略要素 企業や事業部の戦略に関わる要素 コンセプチュアル 企業

表 1:タグとカテゴリー



Figure 1:言及頻度グラフ(スキルカテゴリ)

Figure 2:言及頻度グラフ(主体カテゴリ)

復職後の再適応支援だけでなく、管理職としてのプレビュー効果

4回のワークショップにおける会話をKatz[1955]が分類した3つのスキルにカテゴライズして発言頻度を見ると、最初は「テクニカル」の割合が大きく部下としての目線が強いことがわかるが、回を重ねると共に徐々に「コンセプチュアル」カテゴリの言及の割合が増えており、参加者たちは回を重ねることで対人関係に着目するよりも、より高いレベルでの概念化に着目する傾向がみてとれる。
また発言の主体ごとにカテゴライズして発言頻度を見ると、同じく回を重ねると共に「個人」視座から「職場」「企業」視座への移行が確認できる。主体カテゴリで見れば、「個人」は回を追うごとに減少傾向であり、「職場」「企業」は増加傾向である。
これも育休者個人の視座で考えがちであった初期段階から、徐々に職場全体や、企業全体で捉える視座を獲得しつつあるといえる。これらの現象は、プレイヤーとしての視点から組織全体を見る管理職としての視点に移行していることを示しており、管理業務のRealistic Job Previewつまり管理職教育としての効果も備えている可能性が示唆されている。

この復職支援プログラムは復職後の再適応促進が主目的の介入施策であるが、それとは別に管理職教育としての効果があるという可能性が示唆されたことで、これまでキャリアアップという観点ではどちらかというとネガティブな影響ばかりが取り沙汰されていた育休が人材開発期間となりうること、また人材開発期間とすることで女性はキャリアアップの機会を失わずに済み、企業は組織運営に関与しうる人材を確保できる。

育休期間を単なるブランクではなく、女性従業員と企業の双方に利する期間に転換できる介入施策は、これからの人材不足社会において人材を維持および確保する上での一助となるだろう。

(本稿は、国保祥子(2019)「育児休業中のワーキングマザーを対象にした復職支援施策の副次的効果」『経営と情報』第32巻第1号の要約です。研究・論文に関するご意見・お問合せはkokulabo.research@gmail.comまでお寄せください)

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