長時間労働を評価するべからず

~男女ともに優秀な人材を逃さないで、女性活躍を推進するために~

ワークシフト研究所 
研究員 森家明味

先日、時短勤務の女性の悩みを聞いた。

彼女は、「今は子供に時間をかけたいから、どうしても時短勤務で働きたい」と言う。

「働く意欲はあるし、もちろんしっかり仕事をしているけれど、職場では長く働けるフルタイム勤務の同僚が優遇されてしまう。トップが変わってからというもの、どうも帰宅時に上司に白い目で見られている気がするので、新しい職場にうつることにした」と。 

時短勤務者は、働く時間が少なく、同僚や上司をおいて、早く帰宅しなければならない。
それは制度であり認められていることでもあるが、人事評価でプラスになることはまだ少ない。

実はこの悩み、時短勤務者に限った問題ではない。
本質的に同じ問題を、育児中のフルタイム勤務者の女性たちも抱えている。

つまり、労働時間の長短による「人事評価の差」についての問題である。

フルタイム勤務のワーキングマザーの多くは、無理な残業ができない。残業せずにきちんと帰宅して、自分が子供のお世話をしなければならないのだ、という制約をもつ人が多い。子育てに向き合う時間を大切にしたいということもあるだろうが、女性が家事育児の中心である、という意識が蔓延する日本社会において、配偶者の育児への協力を得にくいことも影響している。

子育てをしている人は、介護を行っている人と同様に、無理に長時間働くことはできない。だが職場で無理して長い時間働けないからといって、彼女たちは仕事を放り投げて遊びに帰るわけではない。

環境が許せば、仕事をもっと精いっぱい、残業してでもやりたかったと思う日もあるし、昇進や昇格もしたいと思っているのである。仕事への想いややる気を強く持っているのだ。[1]

一方で男性は、今の日本社会においては、子育てや家事で配偶者のサポートを得やすく、仕事時間の融通が利く。そのため、勤務時間や出張で無理をしやすく、仕事を受けやすい。定時で帰る必要に強く迫られることが少ないため、家事育児をするために、早足で帰る女性の同僚に親身になれず、やる気がないとすら思うこともある。  

結果として、男女間で労働時間の不均衡が生まれる。それだけならまだよいが、職場や上司の意識下に、長時間労働を評価する軸が存在する場合、問題は深刻だ。昇進や昇格などの人事評価の面で、男女の差が出てしまうのである。

このような、家事育児は女性がやるものだというような社会的な役割分担意識、つまりジェンダー意識の影響はいたるところに存在する。そしてそれが企業において、女性活躍推進の弊害となっている。

ジェンダーとは根深いもので、人々の潜在意識に潜み、さまざまな考え方に影響をもたらしている。よほど意識しなければ、自分の認識に影響していることはわからない。

だが少し考えれば、日本社会の持つジェンダー意識の影響で、女性が時短勤務を選択したり、定時に足早に帰ったりすることや、女性が家庭生活を重視する姿勢をみせることを、女性の仕事のやる気のなさと混同するのはおかしいと気づくだろう。

まして、ジェンダーの影響で労働時間に差が生まれ、結果として昇進や昇格のような人事評価に差が生じるならば、大変な不平等だと感じるはずだ。現実に、優秀な女性社員たちが昇進昇格への男女不平等感を感じている。[2]

それでも、働く時間の長さが、必ずしも人事評価に影響しない時代が来る兆しが見えている。政府の要請を受け、リーダー企業たちが働き方改革に真剣に取り組み始めたおかげだ。2019年の昨今では、長時間労働が悪となり、物理的に阻止する環境が次々と生み出されている。働き方改革の名目において、ある時間以降は、パソコンがシャットダウンされる、電気が消される、ドアが閉まる、などの、多くの事例が巷にあふれている。

どのような方法であれ、勤務時間内労働が完全に徹底されれば、同じ勤務時間内での成果を評価することになるため、比較的公平な人事評価がなされるはずである。働く時間の長さで評価が左右されることは減り、家事育児は女性がやるもの、というジェンダーバイアスがもたらす影響は、影をひそめるに違いない。

望ましいことに、現在、リーダー企業を初めとする、多くの企業が働き方改革を進めており
優秀な人材は、無理な働き方をさせる職場を去る傾向がある。

つまり、企業が長時間労働を評価して、働き方改革で後れを取るということは、すなわち優秀な人材が、意気揚々と競合企業という新天地に赴くのを、指をくわえて見るほかない状況を生み出すことに他ならない。   

今や人材不足は企業が直面している深刻な課題である。働くものが働く場を選べる時代となった。
その状況で、働き方改革をうまく進めるような、「人を大切にする会社」が、優秀な人材に選ばれるのは、論理的にも心情的にもよくわかる傾向だろう。
優秀な人材が集まれば必然的に企業の競争力は増す。逆に、働き方改革が進まなければ、それはすなわち優秀な人材の流出による競争力の低下を意味するようになる。

企業は今、無理をして長く働いて成果をだしている人材を評価しているようであっては、命とりなのである。

長時間労働がなくなれば、ジェンダーの垣根を越えて、女性活躍推進がなされやすくなるはずだ。男女ともに好きなだけ家庭生活を楽しみ、仕事にも意欲的に取り組める、そのような社会にしていきたいものである。

長時間労働を評価していてはいけない。

※本レポートはワークシフト研究所2018年度アンケート調査をもとに執筆したものです。


[1] ワークシフト研究所のアンケート結果(2018年8月)では、女性の仕事への意欲を示す得点が男性同様に高く5点評価で平均値にして約4点を示し、また7割以上の女性たちが男性同様キャリアアップの申し出を引き受けると回答している

[2] ワークシフト研究所のアンケート調査(2018年8月)によれば、回答した女性の52%が昇進・昇格についての男女不平等感を抱いているが、これは男性回答者の40%と比較して大きい数字である。


<株式会社ワークシフト研究所とは>
株式会社ワークシフト研究所(代表取締役:小早川優子、所在地:東京都港区、以下ワークシフト研究所、https://workshift.co.jp/)は、女性管理職・リーダーの育成、企業の働き方改革を目的とした各種コンサルティング、教育トレーニングサービス(法人向け・個人向け)、管理職・リーダー候補の女性の人材紹介サービスを提供しています。育休中の女性を対象とした「プチMBA」の参加者は、累計12,000名を超えました。働くママを応援するモバイルアプリ「piam.」(https://www.piam.club/)でフェムテック分野にも進出しています。

実践的なケースディスカッションを軸とした「ワークシフト・メソッド」を用いた意識変革・組織改革を専門としており、「ビジネス×アカデミア」の交流を促進し、限られた時間の中で最大限の成果と、付加価値を創造する個人と組織を創ります。

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