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株式会社ワークシフト研究所

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2019/12/2

学術論文

女性活躍とケースメソッド

ワークシフト研究所
研究員 小谷恵子

こんにちは。ワークシフト研究所の講師 兼 研究員の小谷恵子です。

先日、「女性が管理職として活躍するために大切なこと」と題するワークシフト研究所の報告会が丸の内で開催されました。
その中で、10月に日本マーケティング学会で発表した研究について、さらに詳細な報告をいたしました。研究テーマは「女性の能力開発を目的としたケースメソッドの効果~ワーキングマザーを対象とした事例研究~」。

現在、弊社で提供している管理職育成プログラム参加者にご協力いただき、アクションリサーチ(被験者と研究者がコラボレーションしながら実践する)という研究方法を使って長期的な視野での研究をしています。

ワークシフトの講座で取り入れているケースメソッドは、実際の(または実際に起こりうる)事例を題材として、困難な課題への対応をディスカッションにより疑似体験する教育手法です。

先行研究から、次のような効果が指摘されています。
・意思決定の機会を与え、理論と実践を融合し、モチベーションを上げる(Brooke 2006)
・双方向性のあるケースディスカッションにより、エンゲージメントが高くなり、学習効果につながる(Nkhoma et al. 2017 )
・他者視点獲得,論理的思考,課題特定,解決策の根拠,行動の結果の推察等に効果がある(Harrington 1995)
・ケースメソッドの利点は、課題診断スキル、ディープラーニング、関与とモチベーションの向上である(Rees et al. 2002)

ダイバーシティの推進は企業にとって対応すべき課題として認識されていますが、女性管理職比率は少しずつ上がってきているものの、未だ10%程度です。女性に管理職を打診しても断られる、管理職を希望する女性が少ない、といった企業からの声も聞こえてきます。

女性従業員に対してケースメソッド教育をすることで会社にどんな利点があるのか、学習ログとインタビューを通して得られた、半年の研究成果をご紹介します。

まず1点目の効果は、「他者視点の獲得」です。
仕事をする上で上司の考えていることを考える癖がついたことで、人を認められるようになった、自分の世界の狭さに気が付いた、顧客目線を忘れないよう気をつけなければなど、自分の尺度で物を見るのではなく、上司や会社さらには顧客の目線で考えることができるようになっています。

その延長としてあるのが、2点目の「他者を意識した行動」です。
周囲の人にやる気を持ってもらうにはどうしたらよいか、どんな話し方をすればよいかなどを考えて実行するという、行動変容が起きています。

3点目として、「会社に対する意識の変化」があります。
会社が出しているメッセージの意味が理解でき、会社や上司に従業員への配慮があることが分かったなど、会社に対しての理解が進んでいます。

このように、他者視点を持ち、他者を意識した行動をし、会社の発信するメッセージを理解するという、リーダーには欠かせない能力を身につけることで、業務やキャリアへの意欲が増したり、後輩の育成やチーム運営の有効性・効率性が増したりすることが推察できます。

また、ケースメソッドは参加型の講座であり、毎回のケースディスカッションでは学びのコミュニティが形成されます。一人で学ぶのではなく、共に学ぶ、学び合うというコミュニティは、回を重ねるごとに参加者のコミットメントが高くなっていくため、学習を継続するモチベーションになります。

これまで女性は、男性に比べて、実社会で様々な課題に直面する機会が限られてきました。どんなに優秀でも、困難な課題を解決する経験がないと、どうしても不安が先行し、自信を持つことは困難です。不足する修羅場経験をケースメソッドにより補完することで、他者の意見を取り入れながら、現実に体験する以上に思考を深める訓練が可能になるわけです。当然男性に対しても、同様にケースメソッドの効果はあるわけですが、女性は、自信をつけるための訓練としてより効果が高いと言えます。

今回の研究は長期的な研究のほんの入り口だと思っています。現在の管理職育成プログラム参加者ともこの研究を続けているわけですが、プログラムが受講者個人にとってメリットになることはもちろんのこと、勤務する会社に対しての効果も出ていることが見えてきました。今後、さらに研究を続けて、体系的に効果を実証していきたいと思います。
研究にご協力してくださる企業または、個人の方がいらしましたら、ぜひお声がけください。

(了)

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